微笑むだけの君

 《道化師の音楽団》団長にして《クラウン》の異名を持つ、アルフレッド=ヴィンディア。《ジョーカー》である赤毛の女性、マゼンダ。そして、《ジェスター》、宮廷道化師たる音楽家のディラス。
 広間にはそうそうたる顔ぶれが並んでいた。アルフレッドはウイスキーを。マゼンダはワインを、ディラスだけが水を飲んでいた。彼はこの後、音楽室に引き籠もってヴァイオリンを弾くそうだ。

「お前、最近変わったなー」

 そう口火を切ったのはアルフレッド。この飲み会主催者の彼はまだまだ酔いには程遠く、意識もしっかりとしている。
 同意を示したのは紅一点、マゼンダである。本当に赤い。

「確かに。そーいやあたしは真白が歌ってるとこ見たことないんだけど、ディラスが連れて歩くだけの技量はあるってことなわけ?」
「俺も知らないんだよなぁ。けど、《歌う災厄》だぜ?屋敷壊されちゃたまんねーよ」
「屋敷が壊されるだけで済めばいいな」

 物騒な事を口走ったディラスは自分の事を話しているというのに、まるで無関心の体だった。そういえばさ、とマゼンダが話を引き継ぐ。

「あんたは?あんたはどーなのよ、ディラス。作曲してるって聞いたけど、進んでるの?資料様も歌ってくれないらしいじゃん。アルが禁止してるから」
「進んでいないな。だが、何か切っ掛けさえあれば完成させられる」
「切っ掛け、ねぇ・・・」

 ばんっ、とアルフレッドが机を叩いた。それは割と力強かったようで、置いてあったマゼンダのグラスが少し浮く。

「つーかよ、俺いまだに信じられねぇんだけど。何だよ連れって・・・何だよ、連れって!お前、そんなキャラじゃなかっただろ!?」
「なんで僕がお前の考えに沿ったキャラでいなければならないんだ」
「身も蓋もねぇ!」

 何が恐いかと言うと、と不意にディラスが話の流れをぶった切った。

「あの歌を何があったとしても聞き届けたいと思う事だ。甘美な麻薬に似ていると、僕は断言しよう」
「分からなくもない例えだよね、それ。身体に害悪しか及ぼさない歌声だし。災厄だから。でも、それでも、聞きたくなる。麻薬ってか煙草とも言えるわ」
「僕は真白の歌声を安全に聞く為ならば、彼女の為だけの曲を作ろう」

 そう言い切った彼は確かに、今までの人格と90度ぐらいは違う人間だった。