食べちゃいたい小さな恋人

 コンビニに寄って雪見大福を買った草薙人志はご満悦だった。もちろん、現在は冬であり、帰り道アイスを食べるなど自殺行為以外の何者でもない。隣を歩いている檜垣玲璃は非常に迷惑そうで寒そうな顔をしている。
 ――が、冬に食べるアイスこそ醍醐味というものだと固く信じているので譲るつもりは毛頭ない。一口食べたいという要望には応えてやらない事も無いが、それを食うなという要求については無視一択である。

「・・・人志。私、寒いな」
「マフラーやろうか?」
「首に巻いてるから要らない。いいからそのアイスを食べるの止めろって言ってんのよ」
「嫌だね。俺はこれだけが冬の楽しみだからな。お前も食うか?」
「食べない!」

 付属のプラスチックフォークを突き刺し、二つあるうちの一つに齧り付く。前歯がキーンと冷える感覚をも愛おしい。
 それを露出狂を見る様な目で見て来る恋人。その視線の方が冷たいのだがどういう事だろうか。

「私とアイス・・・どっちが大事なのよー」
「あぁ?何だそのやる気ねぇ声」

 一体どこまで本気なのか、或いは冗談なのか、そう問うた玲璃の顔は呆れる程にやる気というか覇気を感じさせない。
 これは多分――

「んー・・・言ってみただけ。何か最近、昼ドラにハマっててね」
「で?ドラマの中でそう訊かれたヤツは何て答えたんだよ」
「さすがにアイスと引き合いにされたわけじゃなくて、元ネタは『私と仕事、どっちが大事なのよ!』なんだけど」
「今の真似、迫真過ぎるだろ。女優目指してんのか」
「目指してない。それで、テレビの中のイケメン俳優は答えたわけ。『お前も大事だ・・・だけど、仕事しないと生活出来ないだろう!』」
「煮え切らねぇな」
「逆に言えば誠実だったのかもね。女の勘って当たるからさ、そこで『お前の方が大事だ!』なーんて大嘘吐いてもバレちゃうわけだし」

 なるほどね、と頷く。しかしなんでそう、胸の辺りがムカムカするようなドラマを進んで観ようとするのか。女が考えている事は解らないものだ。

「俺はもちろんお前の方が大事だぜ。うん。アイスより玲璃の方を食べ――」
「シャァァァラップッ!!お巡りさーん!こっちでーす!!」
「・・・おい」