寄せた耳に口付け

「あー、寒いなぁ・・・」

 檜垣玲璃はそう呟き、手袋をした手を擦り合わせた。それで何かが変わる訳ではなかったが、そうせずにはいられなかったのだ。
 対して隣を歩いている草薙人志は理解出来ない、と言わんばかりに首を振った。

「スカートなんざ穿いてるからだろ」
「人志くんや・・・女の子はね、常に可愛くありたい生き物なの。おーけぃ?だからね、そういう台詞は禁句なのだよ」
「うぜぇ・・・。俺は格好とか気にしねぇのに」
「うるさいな。別にあんたに見られる為だけにお洒落とか訳の分からない事してるわけじゃないの」

 何だよそれ、とあからさまに不機嫌な声が聞こえたが無視。コンビニへ向かう休みの日のOLみたいな格好は御免だった。
 不意におい、と人志に声を掛けられた。

「ちょっとこっちに寄れよ」

 にやにやと悪戯っぽい笑みを浮かべる彼に一抹の不安と嫌な予感を抱えるが、言われるままに少し開いていた距離を詰める。何と言うか、常に初々しい感じのカップルである彼女等は一定の距離があるのだ。
 ほとんど密着するように玲璃が近づけば、彼は少しだけ腰を曲げて屈んだ。それだけの身長差が二人の間にはあった。

「う、わっ・・・!」

 耳に柔らかい感触。最初に走ったのは悪寒で、次に覚えたのは顔が沸騰するような感覚。耳元で笑われ、鼓膜が振動する。

「可愛いな、お前」
「うっさい!」

 我に返った玲璃のパンチが、人志の鳩尾に正確にヒットした。