僕の世界を守っていたのは君だった

 昼休みを挟んだ5校時。眠気に襲われるこの時間帯は今日、数学教師が出張しているために自習だった。とくに教材が配られているわけでもなく、勉強に熱心だとは言い難い高校生達は思い思いの暇潰しに勤しんでいた。
 しかし、あまり煩くすると隣の教室にいる教師達が注意にやって来る為、交わされる会話は密やかなものだった。
 かく言う宇佐美禎侑はというと、週末課題を今のうちに終わらせてしまおうと躍起である。近くに無灯志紀なり河野陽菜なりいれば勉強は強制中断を余儀なくされたのだろうが、生憎と彼女等の席はやや遠い。

「・・・い、おい、宇佐美」
「あ、はい。何でしょう?」

 後ろから突かれ、振り返る。本を開いたクラスメイトは何か小さな紙を持っており、それを不機嫌そうに差し出していた。

「これ。何か回って来たぜ」
「え?はぁ・・・どうも。誰からですか?」
「さあなぁ・・・俺も、来たのをお前に回しただけだし」
「そうですか。すいませんね」

 一体誰が。そう思いながら四つに折られた紙を開く。ノートを切り取ってメッセージを書いただけのそれ。

『何やってんの。つまらなくない?勉強なんて』

「・・・志紀さん・・・」

 独特の字とまさに会話をしているような言葉。すぐにそれと分かった。同時、自分がクソ真面目に勉強している事に何らかの不満を覚えている事を悟る。
 どうしたものかと思案していると、横に座っていたクラスメイトから何か小さな紙で作られた箱を渡された。彼女曰く、「回って来た」らしい。ここまで来れば先の展開は読める。
 紙の箱に入れられていたのはチョコレートだった。小さな包みにくるまれた市販の。何とか、とかいうチョコレート。甘い物を進んで摂取しようとしないためよく知らないが。
 ばっ、と河野陽菜を見やれば何やら志紀とアイコンタクトを取っていた。嫌な予感しかしない。

「おい、宇佐美・・・」

 心底面倒臭そうに後ろの彼から声を掛けられた。
 ――この状況は。きっと、彼女等の策だか嫌がらせだかに時間が終わるまで付き合わされるんだろうな。
 そう思った禎侑は素直に観念して、教科書をパタンと閉じた。