それはとある日の帰り道。いつも通り、無灯志紀を誘い、歩いていた帰り道。
とても寒い日だった。急な冷え込みで防寒グッズも持たない中、日が傾いて陰っていく空を見上げる。少し遅くなってしまったせいで、空に燦然と輝くのは銀色の三日月だった。
「うー、さぶっ!志紀さん、寒くねぇッスか?」
「寒いよ、寒い・・・凍えそうだよ」
「えぇ!?もしかして寒さに弱いとか、そんな弱点あったんスか?」
「いや、暑いのも苦手だけど」
――気温変化について行けないタイプか・・・。
彼女と知り合ったのはほとんどつい最近のようなものなので知らなかった。制服のポケットに手を突っ込み、ガタガタ震えている姿を見るとまったく大丈夫そうに見えない。
口数が多い方では無いが、今日に限ってみるといつも以上に口数が少なく思えた。
「何でこんなに寒いんだろう・・・あれかな、私を完全に殺しに来てるのかな。そうか、冬将軍に殺されるのか私」
「いや・・・明日はマフラー巻いて手袋してくりゃいいじゃねぇッスか。防寒対策しましょうよ、志紀さん」
「佐伯くん・・・私はね、ゴロゴロ着込むのが嫌いなんだよ」
「我が儘言うんじゃねぇよ!」
寒い、寒いが志紀を見ているとそうでもないような気分になってくる。この不思議な現象に誰か名前を付けてくれないだろうか。
「あ!そうだ志紀さん、手、出してくださいよ」
「何・・・?」
渋々、ポケットから手を取り出す志紀。その手を両手で握り込む。
「俺、子供体温だってよく言われるんスよ。多分、志紀さんの手よりあったかいはず!」
「あー・・・うん。あったかい。手の皺と皺を合わせて・・・しあわせ、みたいな」
「あ。わけわかんねぇッス。ま、志紀さんがあったかいなら俺は幸せッスね」