温かな君を飼っていたいだけ

 幸野巴と橘六花は親友である。さらに六花の方は独り暮らし。必然的に、巴が六花宅を訪れるのは多くなるわけであって。
 その日、六花宅へ遊びに出掛けたらしい巴が宇都野古伯のもとへやって来ていた。

「古伯さんの家って何も無いですね。家具とか買わないんですか?」

 シンプルだ、と言われた事はあるが何も無いと言われたのは初めてだった。少しの困惑を隠せず、訳の分からない事を宣った少女を見やる。

「・・・どういう意味だ」
「何だか寂しい部屋だな、って思っただけですよぅ。あ、そうだ!何か可愛い小物とかプレゼントしましょうか?」
「か、可愛い・・・」

 はたしてそれは一体どんな物を指すのか。甚だ疑問だったが、それにツッコめば色々終わりそうだったので止めた。

「物は好きにおけばいい。私は何も置かないから」
「そうなんですか?ふーん・・・じゃあ私、家から一杯何か持ってきちゃいますよ。昔から自分の部屋持つの、夢だったんですからね」
「そうか。いいな。取り合う部屋があって」
「兄妹がいるからじゃないんですよぅ。一人っ子だったとしても、多分、共同部屋だったはずです」

 兄妹のあれこれはよく分からないが、彼女がそう言うのならばそうなのだろう。
 ふっ、と彼にしては珍しく小さな笑みを溢す。

「よく分からんが、やりたいようにやればいい」

 それでこの部屋へ何度でも訪れてくれるのならば。
 言い掛けた言葉はそのまま呑み込まれた。