「うっ、うっ・・・うううっ・・・」
目の前で泣きじゃくる主を前に、ルシフェルは途方に暮れていた。どうすればいいのかまったくと言っていい程に分からない。下手な慰めはよくないし、かといって無駄に明るいのも如何なものか。
――そもそも、彼女がこうやって泣いているのが珍しい。
女らしさは無いが。これってあれだ、男泣きとか言う奴だ。
「おい、何があったんだ・・・」
とりあえず理由だけでも聞いてやろう、とやんわり声を掛ける。顔を上げた彼女はやはり涙でぐしゃぐしゃの顔をしていた。
暫くどうすべきか迷ったのか、口を閉ざした六花に根気よく待つルシフェル。
正直、他人の悩み事を聞いてやろうという気になったのは堕天して以来初めてだ。自分にも若干の天使らしさが残っていたのだと妙に感心する。
――まぁ、保護者のような心境、と言った方がいいのかもしれないが。
「実は・・・」
不意に話し始める六花。声はちょっとあり得ない程に震えていた。
「実は、今月・・・」
「な、何だ。今月に何があるというんだ・・・?」
「・・・仕送りが、調味料だけだった・・・。明日から毎日、砂糖と塩だけを食べて生きて行かなきゃ・・・」
――世知辛いな、世の中って。
何だか視界がぼやけて前が見えなくなる。口の中が少しだけしょっぱかった。