求め続けたナニカ

「だーからっ!あたしは右から入るから、お前は黙って左から入ればいいんだよ!」
「はぁ。自分だけ楽しようなんてそうは行かないよ。俺が左から入る」
「変なところで意地張るんじゃねーよ。んなの本当は興味無いくせに」
「あんたに言われたらムカつくから仕方ないでしょ」

 不毛なやり取り。
 3年生の高瀬紗月と浅見隼は常にこういう具合で、最早咎める者など皆無である。それは事態を傍観しているリーダーこと緒方要も同様に。
 現在居る3名に加え、あと2年生に2人。メンバーがいる。
 誰も彼もが仲間にするのに苦労した面々だ。そうそうたる顔ぶれに妙な達成感が湧き上がる程には。

「あたしが、左ッ!」
「いいや、俺だよ」

 左から入るか右から入るか。
 ゲーム難易度の問題であるが、それについては彼等がどちらを選んだとしてもさして違いは無い事だろう。どちらを選んだところで、結果は同じなのだから。
 だから彼等が目の前で行っているやり取りは互いにじゃれあっているだけにしか見えない。互いが互いに虚勢を張り、自分の思い通りにしたいと思いながらその実はそう思っていない。
 ――詰まるところ、微笑ましい仲間内のじゃれ合い。
 しかしいつまでもこうしているわけにはいかない、と要は目を眇め、ほんの少し唇を吊り上げて口を挟んだ。

「正面から入れ。両側は京也と祐司に任せりゃいい」
「なるほどね。それならいいや」
「ふぅん・・・。じゃあ、あたしは正面から入ればいいわけね」

 何やら解決したらしい。右とか左とか、拘るのは構わないが。
 ――さて、時間だ。
 緒方要は立ち上がった。眼前にそびえるのは大富豪の邸宅。

「行くぜ。今回は当たりかな、外れかな・・・」

 怪盗団《黒猫》が後に名を馳せる事になるこの盗難事件。
 しかし緒方要の審美眼が久しぶりに外れてしまったので、盗難品は数日後、持ち主の元へ返還される事となる。