君の唇に押し付けた花

「公演の後、何故か届いた。が、僕は要らないからお前達にやろう」

 相変わらずよく分からない理屈を捏ね回したディラスがそう言って押し付けてきたのは色取り取りの花が添えられた花束だった。かなり大きく、両腕で抱きかかえると前が見えない。
 《道化師の音楽団》内における双子、イリヤとイリスはそれを見て首を傾げる。
 ディラスがヴァイオリン以外の荷物を持ちたがらないのは今に始まった事ではないが、貰ったこれをどうすればいいのか分からなかったのだ。

「つーかさぁ、ディラス・・・」
「他にあげる相手とかいないわけ?」
「この歳で独り身って」
「「寂しい奴だなぁ!!」」

 声を揃えて言い、同時に笑い転げる。しかし花は潰さないように扱っているのだから可愛い光景だ。
 それを見て眉根を寄せたディラスは首を横に振った。

「そんな人間はいないし、欲しいとも思わないな。そして、それは要らないのならばアルフレッドにでも渡せ。あいつなら喜んで受け取るだろう」
「じゃあさー」
「そうそう」
「「最初からそうしなよっ!!」」
「男が男に花束を渡す絵面はかなり気持ち悪いだろう」
「「確かにね・・・」」

 こう豪語するディラスだったが、後に真白という《歌う災厄》を拾う事になる。所謂フラグ的発言だったのだ。


 ***


 花束をどうすべきか思案する双子が次に出会ったのは自分達の姉のような存在であるマゼンダだった。赤い髪が目に眩しい。

「おぉっ!どーしたよそれ」
「これ?ディラスの奴が持って来たんだよ」
「あいつ花束贈る相手もいねーんだぜ!」
「「ダサッ!!」」

 咎められて然るべき発言。しかし、マゼンダもまた一緒に笑い出す。彼女等はこういう集まりなのだ。
 そして、花束の贈り道について先に気付いたのはイリスの方だった。そこはやはり女の子である。ぱちん、と手を打った事によって片割れのイリヤがすぐ彼女の言わんとする事に気付く。

「あたしさ、ちょーっと思ったんだけど」
「奇遇だな。俺も気付いたわ」

 何だ何だ、とマゼンダがにこやかに問う。今日の彼女は上機嫌だ。ひょっとするとすでに酒が入っているのかもしれない。まだ真昼なのだが。
 そんな彼女に向かって同じ顔で、しかしまったく違う笑みを浮かべた双子が同時に花束をマゼンダの眼前に突き付けた。

「「じゃあ、はい!マゼンダにあげちゃおう!!」」

 一瞬驚いたような顔をしたマゼンダは笑って言った。

「面倒になったからってあたしに押し付けるなよ」