手折る君の純潔

 新聞部の一員として諜報活動に勤しんでいると、極稀に『絶対的に見て見ぬフリをすべき場面』に出会す事がある。学校直属の新聞部と言えど、そういう場面を記事にするのはルール違反だ。誰か一人でもその記事を読んで気分を害する生徒がいるのならば、そんな記事は書くに値しないと思っている。
 そんなわけで、絶好のスクープだがネタに出来ない、およそ時間の無駄とも呼べる修羅場なる瞬間に出会したのは、とても久しぶりだった。いや、そうであるからこそ、出会ったのだろうが。
 ――結論。もっと注意して深入りしなければよかった。
 眼前に立つ男女。片方は陸上部長距離のエース、~代青葉。もう一人は彼の取り巻きの一人であり、校内の権力者の片割れたる女子生徒、赤羽美風。
 二人が一緒に行動している所はよく見るが、彼等は付き合っているわけじゃないらしい。どちらも利用しあう、高校生らしからぬ闇取引にも似た付き合いなのだ。

「あぁそうだ、~代。聞いて欲しいのだけど」
「どうしたのかな?深刻そうな顔をしているね」
「実は、うちの近くで最近、不審者がうろついているらしい。いやぁ、実に恐ろしい話だよね」
「面白いなぁ。こんな冬の寒い日に不審者って。凍えちゃうじゃないか。僕だったらまず間違い無く春先にするね。暖かいし」
「そういうわけで、一緒に帰ろうじゃないか」
「普通に言えばいいのに。嘘吐きは――ああ、何だったかな・・・碌な事にならないからね」

 殺伐とした会話が唐突に終了する。
 どちらも曖昧な笑みを浮かべており、その心中を察するには、あまりにも私は幼すぎた。ともあれ、彼等には色々恐ろしい噂もあることだし誤解される前に退散するとしよう。