逆さまの太陽

 《黒猫》として予告状を出した回数――3回。
 失敗した回数――3回。

「おい。京也を鍛えるぞ」

 この一週間の功績を顧みた結果、リーダーこと緒方要が出した結論はそれだった。それを聞き、浅見隼は顔を上げる。彼がたまに間違ったベクトルにその才能の矛先を向けてしまう事は重々承知している事実だった。

「落ち着きなよ。今週は調子悪かったけど・・・佐伯が悪かったわけじゃないよ」
「あぁ?俺が悪ぃ、ってのかよ」
「え、いやそれ以外あり得ないんだけど・・・」

 《白鳥》、《銀狼》に比べうちが弱い理由はそこにある。
 ――《妖倶》とそうじゃない物を確実に見分ける術が無いのである。あるのはよく外し、他の人間よりは当てる可能性のある要の審美眼のみだ。
 要に文句を言う事は出来ない。彼は相応の努力と仕事をしている。
 けれど――やはり、無駄な事に時間を取るのは良くないと思うのだ。

「佐伯は意外と硝子のハートだからあまり刺激しない方がいいんじゃない?俺としては篠崎の協調性の無さ加減もかなり心配だよ」
「あいつは冷静だから良いんだよ。それに、京也と組ませてりゃどうしても働かなきゃならねぇだろ」
「うん。それだけは得策だと思った」
「――てめぇ、俺が最近上手くいかなくて苛々してるだけだと思ってるだろ」

 それ以外何があるというんだ。
 言い掛けて止める。要の言い草はまさに確信であり、反論するつもりも隼には無かったのだ。

「俺達には戦闘しかねぇ。そこまで弱っちまったらそれこそ救いようがねぇだろうが。だから鍛える。今週調子が悪ぃのはもう終わった事だからどうでもいい。この何もしない時間が惜しいからな」
「・・・ちゃんと考えて物を言ってるんだったらいいんじゃない?でも、篠崎も呼んであげてね。あいつ、ちゃんとしているように見えて割と寂しがりだから」

 ふん、と鼻を鳴らした要が携帯電話を取り出す。
 それを見た隼も読書に戻る。
 使われていない準備室に再び静謐が満ちた。