朝日が闇を追いやったから

 寮生組、と橘六花が呼んでいる二人が登校してくる時間は極めて早い。とくに早く登校しようと思っているわけではないが、ほぼクラス内で一番に着いてしまうのだから仕方のない事だった。

「あー、おはよう」
「おお!六花!おはよう」

 最近引っ越した彼女は遅刻ギリギリに来る事が無くなったどころか、朝の時間にゆとりが出来たのか清々しい顔をしている。

「巴は・・・まだ来てないか。何読んでるの?」

 読書に没頭している真柴裟楠に近寄って行く六花。恐らく挨拶したのに返事が無かった事をやや気にしているのだろう。落ち込んでいるとかそういう意味じゃなく。どちらかと言えば、「私がおはようつってんだから応えろよ」という感じか。
 そうして六花が裟楠に絡んだタイミングを見計らったかのように幸野巴がふらりと教室へ入ってきた。にへら、とだらしない笑みを浮かべている。

「あ、おはよーうございます」
「おう。何だ、機嫌がよさそうだな」
「そうなんですよぅ。朝から、古伯さんに会えて私は幸せです」
「うん?こはくさん・・・?」

 それは誰だ一体。
 思ったが口にはしなかった。どこか別の高校に通っている友人だろう、きっと。

「古伯さん、ってのはうちの隣人のお名前だよね」
「ほぅ。それは素晴らしい偶然だな。同一人物か?」
「そうそう。さすが巴。幸運体質バンザイだね」

 けらけら、と六花が笑うと釣られて裟楠が微かに微笑む。それを大袈裟にからかう巴。
 何て平和な日だろうか。
 最近色々――そう、色々あったが、やはり今の平穏な状況こそが一番だとそう思う。

「おい、有真。何をにやにや笑っている・・・」

 だらしないぞ、と言われ、有真は苦笑した。