ガラス玉ごと少しキツイ炭酸を飲み下した

 ラムネを一気飲みした。あの、ビー玉が入っていて、ラムネを飲み干した後に瓶を割らなければ取れない、という仕組みになっているラムネ。どうして冬の時期にそんな事をしたのかは忘れた。たぶん、大した理由なんて無かったのだと思う。

「で、ラムネ飲んだ後辺りから・・・ゴホゴホッ・・・咳が、止まらないんですよ・・・ゲホッ!」

 部活終了後。宮路慎は先輩二人に泣きついた。
 片方は短距離エース、草薙人志。もう片方は長距離エース、~代青葉という大先輩達である。

「おいおい、大丈夫かよ。あーあ、ラムネって恐ぇな・・・俺、今度から飲まねぇようにしよっと」
「そんな殺生なー!俺、本気で悩んでるんですよ!!」
「ラムネの呪いだ、諦めろ。俺は何もしてやれねぇ」

 話が脱線しかけた所で、それまで黙って会話を聞いていた青葉が口を挟んだ。

「風邪を引いたんだろう、単純に。もちろん、ラムネのせいじゃないよ。炭酸が良くなかったんだ」
「えぇ!?」
「また馬鹿みたいに一気飲みでもしたんだろう?」
「そうなんですよ。だって・・・うぅ・・・喉、乾いてたから・・・」

 何だか喉まで痛くなってきた。
 助けを求めるように青葉を見やれば彼は使い捨ての紙マスクを装着している所だった。彼のこういう所はドライで格好良いとさえ思えるが、やられると案外腹立つ。
 ――が、大会も控えているし先輩方に風邪をうつす訳にもいかないだろう。
 と、人志の方を見る。

「・・・俺、風邪みたいなんですけど・・・先輩はマスクとか持ってないんですか?」
「あぁ、俺?俺はいいぜ。風邪ってあまりうつらねぇんだよなぁ」
「それは当然だよ。馬鹿にはうつらない、って言うからね」
「あぁ!?」

 喧嘩に発展しそうだったが、そこは空気を読んだのか、或いは慎に気を遣ったのか消化不良のような要領で自然消滅した。

「ま、俺はうつらねぇからいいけどよ、玲璃にはうつすんじゃねぇぞ!」
「うわぁ・・・先輩、過保護ですね・・・」
「おうよ!あ、玲璃のやつ・・・じゃあな!」

 校門まで来たところで、マフラーを首に巻き付けた女子生徒が立っているのを見つける。彼女こそ短距離エースでモテる人志を射止めた女子である。立ち居振る舞いは少し乱暴な所があるものの、普通の女子高生だ。
 しかし――羨ましいものだ。
 羨望の眼差しに気付いたのか、青葉が悪戯っぽく微笑んだ。

「寂しいのかい?なら、幼馴染みにでも声を掛けてみればいいんじゃないかな。風邪ひいた、ってさ」

 ――ンなわけねぇだろ。
 言い掛けた言葉を飲み下した。何故だか虚しい気分だった。