ゆらゆら笑う月を見下ろして

 紺色の屋根の上に腰掛ける。都会とも田舎とも呼べないこの地は星がよく見えるらしく、燦然と輝きを放つ星々は少しだけ眩しかった。
 ――と、ルシフェルは一つ溜息を吐いて天を見上げた。当然、ここに《存在しない》存在である彼の息は大気を振動させること無く最初から無かったかのように消える。否、本当に無かったのかもしれない。
 銀の鈍い光を放つ三日月はまだまだ満月には程遠く、綺麗な弧を描いている。

「ルシフェルー!そろそろ戻ってきてー!」

 橘六花――主人の声に顔を上げる。しかし、声が聞こえてきたのは下である。
 視線を下に落とす。

「あー、寒いなぁ!何で外なんかいるのさ。閉めちゃうよ!」

 窓から顔を覗かせた女子高生。吐く息が白い。から、今日は人にとってもかなり寒いらしい事がよく分かった。

「――六花」
「んん?」

 開かれた窓に写ったものを見て、ルシフェルは微笑む。

「今日は月が綺麗だな」
「・・・あぁ・・・あー・・・確かに、綺麗な三日月だねー」

 何やら考え込んだ六花はそれだけ言うと中へ引っ込んだ。ただし、窓は開けたまま。