11.
「・・・あれ?」
ふと、正面から歩いて来る女子生徒を発見した。そのくらいでは気にも留めないだろうが、その姿には見覚えがあったし、今日の一件がある以上忘れたくとも忘れられない存在だったので必然的に視線が彼女を追う。それと同時に、何だか彼女もこちらを凝視しているようで身体が強張るのを感じた。
上の空だったフェリクスの意識が帰って来る。凄い目でもうすぐすれ違うであろう彼女の事を見ていたアイリスを怪訝そうに見た彼は、続いてようやくその存在に気付く。
「ヴェーラちゃんだ〜。何かこっちに用があるのかなぁ?」
「私じゃなくて、フェリクスに用があるんじゃないの?」
「あ〜、そうかも〜。手短に済ませてくれないかなぁ。お腹減ってるし〜」
案の定、彼女――ヴェーラは食堂へ向かうアイリス達の前に立ち塞がった。何か用事があるらしく、いつもは明るい笑みを浮かべているその顔は暗い。
しかも第一声は「ごめんね」、だった。
「少しだけ、フェリくんを借りてもいいかな?アイリスちゃん」
「いやそれは・・・私じゃなくて、フェリクスに聞いたらいいんじゃないかな・・・」
どいつもこいつも、フェリクスを動かす権利を持っているのは彼のみであって、アイリスではないというのに。どういう風に見られているのか最近不安になってきた。
「うーんと、で〜、ヴェーラちゃんは俺に何の用?」
「来て欲しいかな」
「え〜、ここじゃ駄目?まだ昼ご飯食べてないんだけどなぁ」
「それはみんなそうだと思うよ・・・」
頑なに動きたがらないフェリクスは困り顔だ。終始笑みを浮かべているその顔が困惑に揺れている様は見ていて愉しい。が、そろそろ助け船を出してやらねばらないだろう。
――ヴェーラの方に。
「クラスで何か話があるのかもしれないじゃん、行っておいでよ。私は部屋に帰ってご飯食べるから」
「えっ!?俺を待っててくれたりとかは――」
「しない。じゃ」
ごめんね、と疲れたように微笑むヴェーラ。別に謝られるような事じゃないだろうに、彼女は先程から随分と気弱である。かなり弱り切っているのは目に見えて明らかだ。
着いて来るな、という意を込めてフェリクスに背を向ける。ここで振り返ってはいけない。「着いて来ていいんだ」、と思わせてしまうと本当に彼は着いて来る。
「それでね、フェリくん。アルハルトくんの事だけど――」
「あ〜、そういえばそーだったねぇ」
背後で聞こえて来る会話はやはり、クラス間での連絡事項だったらしく、早々に興味を失ったアイリスは部屋に何か食べる物があっただろうか、とすでにフェリクスの事は忘れてしまった。
***
『○月×日 曇り
結局、ラウラとヴェーラはどっちが正しいんだろう。というか、もしヴェーラが《憑者》だったらフェリクスと2人きりはまずいんじゃ・・・
追記
誰が正しいとか、正しくないとか、見当外れだった。
自分だけが正しい』