「済まない、山背」
重い沈黙の後、相方である梧桐章吾から告げられた言葉はそれだった。目を伏せ、首を横に振る彼はもう意見を変えるつもりは無いのだろう。
「いや、別に俺は構わねーよ。・・・うすうす、そうなるって気付いてたし」
「悪いな。村の為だ」
「謝るなって。俺の発言、今思い返してもかなり怪しいし、俺が村人だって主張は譲らないけど、これだけ占われていない人間がいるなかで軽率な行動だったと思うよ」
などと言いつつも、もちろん山背修の心中は決して穏やかではなかった。簡単に言ってくれるが、それはつまり処刑。死罪。死刑。
――何をした訳じゃ無い。強いて言うのならば、大事な場面で黙して何も語らなかった事が全ての元凶。何もしなかった事が、罪。どうしようもなく詰んでいる。
自分が今この場で吊られるのは、他の『何者なのか分からない存在』の中で一際怪しくて役立たずだったからに他ならないのだ。
「――そろそろ投票時間だぜ。これで決定か?」
「・・・・あぁ」
頷いたのは自分じゃなく――章吾。彼はいの一番に本物か偽物かも分からない占い師から人間宣言を受けているので場を取り仕切っている。
人生最期になる深呼吸をして、修は外を見た。日が傾き始めている――
***
ギィギィ、と。人間を吊った重みで軋む縄の音を聞きながら章吾は静かに目を閉じた。彼が限りなく村人に近い存在である事は分かっていたが、恐らく他の誰に死刑宣告を下しても同じ反応だった事だろう。ここで吊られるような馬鹿が人狼ならば、こんな村内裁判のような事態には陥らない。
ちらり、と章吾は最後の――最期、時間だと知らせて決断を迫った彼へと視線を移した。宮野春暁。彼もまた、人外なのかそうでないのか分からない不確定の一人。
「・・・ぁ」
そんな彼を横目で見て、気付いた。気付いてしまった。
恍惚として、邪悪で、それでいて無邪気で、陰鬱で、むしろ陽気な、笑顔。嗤い顔に。
目が合う。身体が動かない。頭を殴られたように視界が揺れる。
不意に、春暁と目が合った。その目が三日月型に歪む。そうして、彼は唇だけを動かして、言った。
――こんばんのぎせいしゃは――
山背修:村人
梧桐章吾:村人
宮野春暁:人狼