10.研修時代に習った事
「どこへ行けば良いんだろう……」
外は限りなく知っている風景そのものの場所だった。立地も現実のそれと同一。であれば、まずは支部でも目指して歩いてみるとしよう。無いとは思うが、怪異撃退アイテムなんかがあるかもしれない。
それに、完全に希望的観測ではあるが支部には除霊師達が集まる。ある程度、現実とリンクしていればそこからミソギ達の存在を誰かに読み取って貰えるかもしれない。
「どこに向かっているの?」
結芽の言葉で我に返る。そうだった。彼女もいるんだった。
「今は支部――除霊師達が集まる、会社みたいな場所を目指しています。誰かが私達に気付いてくれるかもしれないし」
「そうなのね、流石はミソギさん。私よりずっとずっと頼りになるわ」
「いや、そんな事は……」
――何だか現実の私とは別の人でも見えてるのかな?
繰り返すが、彼女とはただの知り合い否、知り合い未満の可能性もある。まるで昔から頼りになってしっかり者だったかのように絶賛されるのは少しばかり気味が悪い。自分を通して別の人物を見ている訳でも無さそうだし、謎は深まるばかりだ。
――いや、今はそれどころじゃない。怪異の攻略方法は怪異の中に。
研修で一番初めに習った事を脳内で反芻。焦ってはいけない。今一緒にいるのはただの一般人だけで、自分自身がしっかりしなければ解決の糸口を見つける事は出来ないのだ。
その為には探索が不可欠。一見すると誰も居ないがいつもの風景に見えるこの場所にも何か意味があるのかもしれない。
「結芽さん、探索をしようと思うからたくさん歩くと思う。大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫。あなたに任せるわ」
「そうですか。夢の中とはいえ、無理はしないで下さいね。現実に作用するかもしれないし……」
「心配してくれるの? あなたは本当に優しいのね。けれど、気にする必要は無いわ。さっきも言ったけれどあなたが行く所なら、どこへだって行くから」
「そ、そうですか。有り難うございます……?」
やっぱりどことなく不気味だな、そう思いつつその感情に気付かないふりをし、探索を開始する。まずはどこへ向かおうか。
***
南雲は霊障センター3階、301号室を訪れていた。というのも、午後からは一人で仕事なのでミソギの見舞いに来たのだ。
なお、トキも誘ったが頑なに拒否されてしまった。あれは多分、本能的な恐怖を覚えた拒否反応であったと思われる。彼の同期達は「センターが嫌いだから足を運ばない」と、トキの事をそう称していたが恐らくは違う。
彼は意外にも仲間内で起こった事故を見据える度胸が無いのだろう。不器用な彼なりの、心の整理方法なのかもしれない。
ともあれ、そんなわけで一人で病室へやって来た南雲は、いつも一緒に叫んでは逃げ回っている先輩の顔を見下ろす。顔色はあまり良くない。呼吸をしていなければ、まるで死体のようだと物騒な考えが脳裏を一瞬だけ過ぎる。
仲良しの先輩が寝込んでいようが、通常業務が無くなる訳では無い。現在はその通常業務にも追われつつ、手掛かりを探している状況だ。
昨日は何も進展しなかった。というのも、相楽も氷雨にも会えず1日を無為に過ごしてしまったからだ。組合長である相楽からの通達は通常業務をこなせの一点のみで、ミソギに関しては触れて来なかった。水面下で動いているのか、単純に手が減るので何か動きがあるまでは勝手な捜索をするなと言いたいのか。
切羽詰まっているらしく、詳しい事情が通達されていない。どうやら組合内は混乱を極めているようだ。
――昨日はトキ先輩もボンヤリしてたしな……。
近年まれに見るボンヤリっぷりだった。前方不注意は当然、突然いないはずのミソギの名前をうっかりで呼んだりと、まるで別人のようだった。
「先輩……。俺、きっと解決策を見つけてみせますからね……!」
何となく静かないつものメンバーを元の状態に戻す。その為なら、徹夜の1日や2日くらい我慢する腹積もりだ。