06.外部からの助っ人
一通りレポートのような報告文を読んだらしい相楽のコメントは実に的を射た問い掛けだった。
『相楽:緊急事態だから名前出すが、一緒にいるのはトキか紫門か?』
『赤札:あ! トキ先輩と一緒っす!』
『相楽:だろうな、文が完全にトキ……。取り敢えず、今回は巻き込まれが増え過ぎて人員の見分けが付かない。悪いが、名前の欄を赤札から名前に変えてくれ。機関のハンドルネームな。間違っても真名は書き込むなよ』
『赤札:うっす、了解っす。トキ先輩も?』
『相楽:おう、学校にいる連中全員な』
名前欄の部分を変更しながら、トキに話し掛ける。彼もスマホを見れば状況が分かるだろうに、何故か伝達待ちなのは何故なのか。
「先輩、ルームに書き込みする時には名前変えろって相楽さんが」
「私は基本的にアプリを使わない。一人にならない限りはな」
「あれ? でも俺と合流する前。あれって書いたの先輩っすよね? ミソギ先輩に書かせれば良かったじゃないすか」
「……学校に入る前からアレが怯え切っていて、とてもじゃないが文字を打てる冷静さではなかったからだ……ッ!!」
――先輩、多分機械系ダメなんだろうな……。
自分の思い通りに動かない物。その最たる例が機械だ。恐らく、否、間違い無くトキはこの細々した小さな端末で文字を打ち文字を読むのが苦痛でしかないタイプだと思われる。
名前を変えているうちに、相楽から新しい指示が出た。
『相楽:出来たか? 多分、お前に報告とか任せるのは難しいから連絡係を紫門に変われ。今はぐれてるんだったか? 合流してからでいいから』
『南雲:了解。トキ先輩にルームのIDって送った方が良いですか?』
『相楽:トキは……まあ、見ねぇだろうが一応送れ』
先輩、と南雲は再びトキに声を掛ける。ぼんやりと窓の外を見ていた双眸がこちらを向いた。
「先輩にルームID送りたいんで、メッセのID送って貰っていいすか?」
「はァ? 貴様が私にIDを送るんだろうが」
「え? いやだから、先輩にメッセージを送らなきゃいけないんで、メッセージのID教えて欲しいんすけど」
「何が言いたいんだ。からかっているのなら痛い目を見るぞ」
――マズイ。これIDのIDとかいう訳の分からない感じになってるやつだ。俺の言いたい事、伝わってねぇわ。
もういっそ、スマホさえ貸してくれれば勝手にやるのだが。
「あー、俺と連絡を取れるように連絡先を交換しませんか、って事なんすけど。メールアドレスは? 電話番号でもいっすよ、そこから同期するんで」
「知らん。自分のアドレスなど、見る機会が無い」
「プロフ開いてくださいよ」
「それはどこにある」
「……スマホ、貸してくれれば俺があとはやりますけど」
スマートフォンが投げ渡された。何て軽い、情報のやり取りか。
自分の持っている機種と同じだったので、サクサクと画面を開き電話帳まで行き着く。チラッと見た感じ、登録されている連絡先は10人以下だった。どんな生活送ってるんだ、この人。
悲しい事実に目を瞑り、自身のアドレスを登録する。登録したメールアドレスからメッセージを辿り、ようやくの思いでルームIDをトキへ提供する事に成功した。まさか、このどうでも良い事でここまで時間を食うとは。
自身のスマホを見れば、相楽の困惑したような文言が並んでいる。
『相楽:おーい? あれ、何で返事ねぇんだ……』
『白札:話が終わったと思ったんじゃないですか? 南雲がスマホ見ないと、相楽さんの連絡に気付かないし案外不便ですね』
『相楽:ええ? 思っきし離してる途中だったろ』
『白札:組合長、誤字ってます』
『南雲:すんません、今戻りました』
勝手にフェードアウトしたと思われていた。大変に心外である。遺憾の意。
しかし、向こうも急ぎなのか意外な言葉が吹き出しの中に収まる。
『相楽:悪いが、俺は今からお上に必殺アイテムの許可をぶん取りに行って来る。割と人数いるし、大事にはならないと思うが俺の指示を代弁する赤札を2人用意しておいたから、そいつ等と連絡取り合っててくれ! 悪いな、おっさんの予想では1時間弱くらいで戻る!』
『南雲:ええっ!? ちょっと!!』
慌てて引き留めたが、相楽からの返信はなかった。恐らく画面外、物理的に役目を交代したのであろう赤札2人とやらが代わりに返信を寄越してくる。
『赤札:交代したぞ! 俺達がしっかりナビゲートするから、大船に乗ったつもりでいてくれ!』
『赤札:よろしく。私達は常にアプリを見ているから、発言を控えている白札の面々も気付いた事があれば吹き出しを流してくれ。必要であれば返信する』
IDを送ったにも関わらず、アプリを改めないトキの為に逐一起こった事を報告。しかし、相楽がいなくなったと言ったせいか何故か南雲のスマホの画面を覗き込んできた。そして、引き攣った顔で一言。
「上の吹き出し。何だか腹立つな」
「失礼! どうしたんすか、急に!」
「いや、今ここにはいない大馬鹿の顔がチラついた。まさか、平日の夜からこんな所で油を売っているわけではないだろうが……。おい、何か流れてきているぞ、お前への指示が」
「それは転じて先輩への指示でもあるんじゃ……」
『赤札:見ているか? まあいい、取り敢えずこれからの指示を相楽さんが言った通りに書くぞ!
まず、アカリの件。騙されたフリをして、一時は監視しておいてくれ!
それと、除霊師の件。紫門さん達がいないから何とも言えないが、その他に白札1人、赤札1人が紛れ込んでいるかもしれないらしい! 連絡が付かなくなっているそうだ。見つけたらちゃんと合流してやってくれ!』
『赤札:以上、合流したらもう一度連絡しろ。あと、南雲とか言ったか? ルームを定期的に覗くよう、他の連中にも伝えておくように』
『南雲:うーす、分かりました』
「先輩、俺等は合流すればいいみたいっす」
「当然だ。時間をロスした、早くミソギを捜しに行くぞ」
立ち止まっていた時間を取り戻すように、トキの歩く速度が上がる。その背中を慌てて南雲は追った。