6月13日

 その日、朝早く起きて来たグロリアはリビングに長兄、アレクシスの姿を見つけてこっそり溜息を吐いた。彼女は兄がどうしようもなく苦手だったのだ。というか、宇宙人か何かと話している気分になってくる。
 机に腰掛け、何やら紙面に向かい合って手にはペンを持っている。自分で淹れたらしいコーヒーを飲みながら。他の家族は偶然にもいない。
 舌打ちしたい気分を必死で堪え、黙って斜め前の席に腰掛ける。今日は早く家を出ようと思っていたので学生鞄を椅子の横に置き、パンコーナーから取ってきたパンの袋を開ける。

「――おはよう、グロリア」
「・・・おはよう」
「ところでお前、ルーズリーフを持っていないか?」

 挨拶だけに留まらず、不穏な要求。持ってるけど、と返せば兄は満足そうに頷いた。

「切らしていてな。一枚くれないか?」
「・・・いいけど」

 鞄からルーズリーフを一枚取り出し兄に渡す。少し高めの紙だったのだが、ペンを走らせてすぐアレクシスはそれに気付いたらしい。ちょっとだけ驚いたような顔をして紙の表面を撫でている。書きやすいの売りのルーズリーフなのだ。

「良い紙だな」
「一枚5円くらいする紙よ、兄さん」

 もちろん盛りすぎ発言である。が、兄はそうかと神妙そうに頷いた。彼は財布のヒモが緩かったり緩くなかったりするタイプ。このまま上手い事言いくるめれば駄賃をくれるかもしれない。
 ――が、そんなグロリアの小さな希望はすぐに断たれる事となった。

「5円か。賽銭でも入れた気分になっていてくれ」
「兄さんはいつから神様になったのかしら?随分と大きく出たわね」

 今度こそグロリアは小さく舌打ちした。