第8話

07.


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 サラッと王都へ行けと言うが、ハッキリ言って遠い。這々の体で辿り着いた久しぶりの王都は久しぶりであるが故に活気づいて見えた。ギレットはリンレイの関係者しかいなかったので、余計にそう見えるのだろう。

 アポ無しで王都まで直に行ったが、すぐに応接室のような場所にまで通された。リンレイの伝言がちゃんと届いていたのかもしれない。

「あぁぁああ〜……。まさかこんなに直ぐ蜻蛉返りする事になるとは思わなかったな」
「ダリルさん、王都のアレはもう解決したんじゃなかったんですか? 別に嫌がる理由、もう無いじゃないですか」
「気持ち的な問題なんだよ……。苦手意識が一度付くと何か、ほら、モヤッとするだろう? モヤッと」
「分からなくもないですけどね」

 ゲンナリ顔のダリルは深々と溜息を吐いた。メンタルが弱く、同時に戦闘民族の気も持っている。人間とはよく分からないものだ。
 応接室の高級そうな空気を吸い込む。
 写本の一件を担当していたハーゲンが来るとの事だったが、彼も彼で多忙らしい。少し待っていて欲しいとお願いされてしまった。

「ダリルと現団長はどっちが強いんだ?」

 全く空気の読めない問いを投げ掛けたのはロイだ。悪びれもせず小首を傾げている。今このタイミングでする質問じゃないだろとしか思えなかったが、フォローの言葉も見つからなかったので珠希は固唾を呑んで現状を見守る他なかった。
 そんなロイ少年の問いに対し、意外にもダリルは冷静に考える素振りを見せる。誰が強いとか、何が強いとか。実に高校男子らしい話題だ。

「んー……。まだ俺の方が強いだろ。多分。まあ、ヴィルヘルミーネは努力家だからな。実際にやってみないと分からん」
「へぇ! 俺と団長さんだったらどっちが強い?」
「ヴィルヘルミーネ」

 ――まだ来ないのかな、ハーゲンさん……。
 和気藹々としている応接室を尻目に、ドアを見る。まだ人が来る気配は無い。とはいえ、仮に誰かがこの部屋へ向かって来ていたとしてもノックされるまで気付かないだろうが。

「退屈そうですね」

 ランドルが話し掛けて来た。ちら、と室内の様子をもう一度伺う。イーヴァとフェイロンは何やら神妙そうな顔で話込んでおり、現在フリーなのは彼とコルネリアだけだ。当然、ロイとダリルは未だに血生臭い話題を繰り広げている。

「退屈っていうか……。この際限のない待ち時間が苦手なんですよね。時間が決められているのなら、何か別の事をして時間でも潰すんですけど」
「いつ来るのかも分かりませんしね。ただ、今20分が経ちました。これ以上は待たされないかと」
「え?」
「30分も待ち時間があるのなら、僕なら時間を改めて頂きますから。王都はそういうルールなんです」

 暗黙の了解があるのか。なら、これ以上は待たされないのかもしれない。いきなり城へ来たこちらが悪いのだが。

「あ、誰かいらっしゃったようですね」

 え? とその言葉の意を問うより先にドアがノックされる。フェイロンが返事をすると、件のハーゲンが中へ入ってきた。

「おはようございます。お待たせしてしまって、すいませんでした」

 どこのホスト? と訊きたくなるような爽やかな笑みを浮かべているハーゲン。彼はその手に分厚い本を持っていた。

「よい。して、写本とやらはそれの事か?」
「ええ、フェイロン殿。これが貴方の探していた写本です。えぇっと、少し詰めて貰っていいですか? 俺も座らせて下さい。そこそこ長話をするつもりなので」
「うえっ!? あ、はい。すいません」

 コルネリアの方に詰めると、隣にハーゲンが座ってきた。眩しい。ヴィルヘルミーネもそうだが、彼等は独特の匂いがある。何と言うか、人種からして違うような。
 ダリルの様子を伺う。彼は元部下を前に、完全に硬直していた。いやいやいや、流石に堂々と胸を張っておけと言いたくて堪らない。