「食虫植物であの人を捕らえてみせる!」「まず溶けるぞ、其れ」


お題サイト「Mercy Killing」様よりお借りしました。



「最近、梧桐先輩との距離が詰まってきたと思うんです!」
「・・・おう」

 3年5組の教室にて。部員に連絡があった私はそんな会話を小耳に挟み、そちらを見た。一人はこのクラスの生徒である山背修くん。彼は我が校テニス部1番手の前衛だ。この度はインターハイ出場が決まってお目出度いばかりである。
 もう一人は2年3組の生徒、朝比奈深夏さん。家研部と声楽部に所属している女子生徒だ。
 しかし、二人の関係性が見えてこない。私が知る限り、彼等に接点と呼べる接点は無かったはずだ。
 首を傾げてその様を見ていれば疑問はすぐに氷解した。

「山背先輩に訊きたい事があるんですけど」
「お前、俺の名前知ってたのな・・・」
「知ってますよ。だって、梧桐先輩とペア組んでる人ですよね?」
「そうだけど、俺の事なんて眼中に無いだろ、朝比奈」
「ありませんよ。けど、梧桐先輩の事を知る為には、先輩に色々お聞きした方がいいかなって思って」

 あぁそう、と息を吐くように呟いた山背くんは困ったような視線を朝比奈さんに投げ掛けた。彼女はそれに気付いていながら、引くつもりなど微塵も無いらしい。
 見つめ合う事数秒、やがて折れたのは山背くんだった。

「・・・で、何が知りてぇんだよ・・・」
「テニス部への差し入れって何がいいんですか?」
「渡すなら焼き菓子がいいぜ。生モノは腹壊す可能性があるからな」

 そこはテニス部に3年間所属しているだけあり、迷い無く答える。そう、運動部は――特に大会に多く出る運動部は、火が通った差し入れしか貰わない傾向がある。少し前、新聞のネタとして取り上げたのでよく覚えている。
 それに対し、朝比奈さんはやや残念そうな顔をした。

「私、お菓子作りは出来ないんです。和食は得意なんですけど・・・」
「和食かよ。差し入れには向かねーだろ。つか、家研部なのに何で菓子の一つ――」
「家研部だから、です」
「・・・あぁそっか」
「それに私が知りたいのは世間一般男子の好みではなく、梧桐先輩の好みなんですよ」

 あー、と呻った山背くんはしかし、顔を背け呟いた。

「ならスポーツドリンクがいんじゃね?あいつ、いつも喉渇いたつってるし」
「成る程・・・。参考になりました、ありがとうございます!」
「リア充どもめ・・・」