お題サイト「Mercy Killing」様よりお借りしました。
「・・・え?いやごめん、今、君は何ていったんだい!?」
昼休み。唐突に現れた後輩、桐生幸雄を前に宮路慎は顔を引き攣らせた。彼の頭がとうとう狂ってしまったのではいか、と危惧したのだ。
しかし当の本人は至って真面目に、先輩の問いどうりもう一度同じ言葉を口にした。
「神埼悠那さんについて教えてください。俺、一昨日ぐらいからずーっと気になってるんです」
「ふぁっ!?正気かい!?それとも脅されたりしてるのかっ!」
「え?一言も話した事無いですけど・・・」
「もっと可笑しいよ!!」
何を言い出すんだこいつは。心中で絶叫し、口の中に含んでいたサンドイッチを飲み下さす。これは今まさに後輩が問うている神埼悠那が作った昼食である。本日、弁当をすっかり忘れて来た慎は登校してすぐ悠那へ相談した。そうしたら昼になって溜息混じりに渡されたのがこのサンドイッチである。
4切れあったそれは、もうすでに残り1切れ。思わずそれを二度見した。
「何だかよく分からないけど・・・これ、食べるかい?」
「俺は昼飯、摂って来ましたけど」
「悠那が作ったやつ」
「貰いましょう」
「君は時々、遠慮って言葉をどこかに置き去りにしてくるね」
1分もしないうちに食べ終えた鉄面皮の後輩はほんの少しだけ笑った。気に入ったらしい。
「美味しいですね」
「まぁ、あいつ、家研部だからね。和食は破壊的な味がするけど、その他は美味いよ。特に菓子が上手って言ってたかな」
「あぁ、俺も草薙さんに聞きました。学校の七不思議。家研部で作られた料理の中に爆弾が混ざってるとかいう」
「間違っちゃいないけどさ・・・間違っちゃ・・・」
ジンクスなのだ。家研部の部員は料理は上手だし、大概何でも作れるのだが、個人差こそあれど必ず壊滅的に下手くそなジャンルの料理を持っているという。例えば悠那だったら菓子はパティシエ並に上手く作れるが、和食は全て炭になる、という具合に。
――が、悠那の事について問うてきた幸雄は『料理が上手』の部分しか聞いていなかったようだ。興奮気味に「料理が出来る女性って良いですよね!」とほざいている。
「あー・・・俺から言える事はそうだな、悠那からは何があっても和食料理だけは貰うなよ。俺はあいつのせいでえらい目に遭ったからな!」
「お菓子が上手なんですね。じゃあ、もし話す機会があったら言ってみます」
「・・・俺はあまり恋愛とかよく分からないけど、何なら今ここに、悠那を呼んでくるぞ?」
「いいえ、大丈夫です。何も知らないのに会話なんて出来ません」
――あ。こいつ、あれだ。ストーカー気質ってか、ストーカー予備軍だ。
今はいない神埼悠那に、慎は少なからず同情した。