飛べ!落ちろ!


お題サイト「Mercy Killing」様よりお借りしました。



 3年バスケ部、宮路春暁は途方に暮れていた。
 というのもここは喫茶店なのだが、目の前には同じバスケ部であり後輩の女子生徒、蒲田柚木が座っている。
 ――問題は彼女が俯いて小刻みに震えている事だった。

「なぁ、落ち込むなって、元気出せよ」
「・・・・・」
「またやり直しゃいいだろーが。おら、これ持って」
「・・・・分かり、ました・・・あと、先輩」

 彼女が机に放り出していたそれを手渡す。そこで、柚木が顔を上げた。
 ――ちっとも想像していたように泣いていたわけじゃなかった。というか、その逆。顔は真っ赤で歯を食いしばっている。

「私は泣いてませんよ!何してくれてんですか!あなたがアホな事やらかすから、何度私が死んだ事かッ!!見てくださいよ!!アイテムなんて全ロストですよ!?今から私はどうやって生活しろってんですか!!責任!!責任取ってください!!先輩が持っている全てのアイテムの壌土を所望しますッ!!」
「お・・・おぅふ・・・」

 だんだんっ、と机を両手で叩く。その様がちょっと某配管工ゲームに出て来る茶色いゴリラに似ていた事は言うまでも無い。
 PS●を手にした柚木は泣くでも落ち込むでもなく、ただただ怒り狂っていた。
 ともあれ、現在の状態を整理しよう。
 今日は土曜日。朝は学校で昼までだったので一旦家へ帰り、近くの喫茶店で柚木と待ち合わせていた。部活はちなみに休みである。
 ゲーム愛好家同士、ゲームをするって事で一緒にモンスターをハントしていたのだが、1回目はどちらも死んで全滅。2回目は柚木が死んでしまったものの、何とかモンスターを倒した。3回目も同じ、4回目も同じだ。
 そうして5回目の戦いに身を投じようとしたところ、柚木が嫌になったのかゲーム機を放り出した。
 ――以上が、今の1時間で起きた出来事である。

「おまっ・・・アイテム全部!?横暴すぎるぜ・・・」
「先輩が真面目にやらないからいけないんですよ。たまに頭沸いてるとしか思えないよーな事やってたでしょ!」
「あー、くそっ!じゃあ分かった!今からの2時間で無くしたアイテムの回収だ!!モンスター倒しまくるぜ!」
「いいですよ。でも担保として先輩のアイテムください。というか、この装備じゃ戦場なんて行けませんよ」

 こうして日が暮れるまでゲームに明け暮れたのだが、その間、水しか飲んでいなかった春暁達は会計時、店員に心底嫌そうな目で見られる事となる。