運命の黒い糸


お題サイト「Mercy Killing」様よりお借りしました。


「~代さん。宮路さんと草薙さんはどうしましたか?」

 そう~代青葉に問うてきたのはつい最近、陸上部に入部してきた1年生の桐生幸雄。彼は短距離選手であり、1年にして2年を抜いて次期エース候補に名乗りを上げた将来有望な後輩である。
 引退する前に有望株を手に入れられたからか、近頃の草薙人志はひどく機嫌が良い。常に浮き足立っているような有様だ。
 そして、そんな幸雄が今まで3人で下校していたその中に入って来るのにそう時間は掛からなかった。2年の宮路慎が先輩面しているのが非常に面白い。
 ともあれ、従順且つ器用な有望株である後輩の問いに薄く笑みを浮かべた青葉は答えた。

「人志なら檜垣さんと一緒に帰るみたいだったよ。卒業が近いからかな、最近はよく一緒にいる所を見掛けるね」
「そうですね。俺、カノジョなんて出来た事ないので少しだけ羨ましいです」
「へぇ?作ろうと思えば作れるんじゃない、すぐにでも」
「俺は俺が好きな子と付き合いたいんですよ。一方的に好かれるのは、何て言うか、あまり好きじゃないんです」

 訳の分からない奴だね、お前は。そう言って青葉は笑った。言いたい事は分かるが、それを伝えるには彼の言語能力はやや低かった。それでも、慎なんかよりは随分高いのだろうが。

「それで、慎は――ほら、そこにいるだろ?」
「え?」

 宮路慎は家研部の神埼悠那と幼馴染みである。そんな彼女に捕まったらしい慎は渡されるタッパーを青い顔をして断っていた。悠那は家研部であり、料理が下手なわけじゃないのだが、何故か和風料理を作らせると必ず失敗するらしい。
 隣に立っていた幸雄が微かに目を見開くのが分かった。始終、仏頂面の彼もああいう顔をする事があるのだな、と何故か少しだけ笑えた。救える話だと思った。

「~代さん。あの、隣に立っている女子は何ですか?宮路さんのカノジョか何かですか?」
「あれ?気になるんだ。彼女はね、慎の幼馴染みだよ。付き合ってるとか、そんなんじゃないみたいだ」
「・・・そうなんですか」
「何をそんなに穴が空くように凝視してるのかな?」
「いや、神埼さんでしたっけ?可愛い人だな、って」
「えっ」
「宮路さんとは付き合ってないんですよね?」

 念を押すようにそう訊いて来た幸雄に頷いて返す。ポーカーフェイスが売りの青葉だったが、この時ばかりは驚きで目を白黒させている。
 同じく仏頂面がデフォルトの桐生幸雄がふっ、と笑った。青春臭い笑みだった。

「なら、俺にもチャンスはあるって事ですよね」
「あー・・・見掛けによらず惚れやすいんだね」
「そんな事ないですよ?」

 ――いやあるだろ。
 言い掛けた言葉を呑み込んだ。