愛されないバカ


お題サイト「Mercy Killing」様よりお借りしました。



「あかーん!ごめん草薙、ちょっと千円ほど貸してくれん?」
「あぁ?」

 同じクラスの嘉島勇斗。クラス替えをする前までは大して接点も何も無かった彼だったがクラス替えとは偉大なもので今ではクラス内で一番話す友人のような位置付けになっていた。
 そんな友人のあまり可愛らしくない頼みを前に、草薙人志はどうやって断ったものかと頭を悩ませる。今日は千円しか持っておらず、帰りには恋人である檜垣玲璃にアイスを奢ると約束している。彼に渡せる金は一円たりとも無いのだ。
 暫し黙って考えた人志はやがて首を横に振った。

「・・・持ってねーよ」
「嘘吐かんといてよ!俺、超困ってんねんで!つか何やねんその間!!」
「うっせーなっ!持ってないもんは、持ってねぇんだよッ!!」
「絶対嘘やわ!あ?もしかしてあれか?今日は諭吉さんしかおりません、ってな感じかいな!!」
「そんな大層な御仁は俺の財布の中にゃ生息してねーよ!言わせんな虚しいから!!」

 そこで変な沈黙が場を支配する。
 ややあって話を切り出したのは人志だった。

「・・・何で千円、必要なんだよ」

 そう問えばいつもへらへらと締まりの無い笑みを浮かべている勇斗の顔が鬱屈と歪んだ。あまりの豹変振りに掛ける言葉を失う。

「無くなったんや・・・俺の、千円が・・・」
「おいそれ盗難じゃねーか。俺じゃなくて先生に相談しろ馬鹿」
「・・・せやんねど、せやねんけどっ!!言い出しにくいやん!そーいうの!!」
「いいから言えよ!お前金が大事じゃねーのか!?」

 とんでもない奴である。相談する相手を間違えているとしか思えない。
 ――が、本人は至極真面目のようなのでどうやって彼を躱すか考える。これ以上、勇斗のペースに引っ張られていれば確実に財布の千円札は無くなる。

「よく探したか?机の中とか鞄の中とか!」
「財布から出した記憶無いんや。それに――」

「おーい、勇斗!」

 実に良いタイミングで横槍が入った。隣のクラスからの来訪者らしい。人の良い笑みを浮かべた背の高い、がっちりした感じの男子生徒。
 ――三城成実。サッカー部のキーパーだ。
 はっ、として勇斗が顔を上げる。彼等はクラス関係無く仲の良い、所謂親友とかいう間柄らしいのだ。

「な、成実――!聞いてや、ちょっと!」
「ん?おう、何だ。あ、その前に」

 やって来た成実がごそごそとポケットを漁り、紙切れを勇斗に渡す。

「ほい、借りてた千円。悪かったな、金なんて借りて」
「・・・えっ」
「何驚いてるんだよ。俺はちゃんと借りるって言って借りたぞ。お前も聞いてたしな」

 何が起きたのか理解した勇斗の頭が、ぎこちない動きでこちらを向く。そうして、一言。

「えへ。間違っちゃったわ。許して」

 悪びれていないその謝罪に対し、人志は叫んだ。

「可愛くねーんだよ、馬鹿ッ!!」