馬すら蹴るバカップル


お題サイト「Mercy Killing」様よりお借りしました。



 その日、私は自分のクラスで新聞のネタをメモ帳にまとめていた。新聞部の引退は12月過ぎ。まだまだ期間は長いというか、文化部は10月の総文祭が終わるまでは大体部活である。
 クラス分けの関係でバカップルと有名な草薙くんと檜垣さんのクラスは別れてしまった。残念がっていたのは草薙くんだけで檜垣さんはそうでもないようだったが。
 そうなると、必然的に。
 ――草薙くんの方が檜垣さんの教室へ遊びに来る事になる。

「よぉ、玲璃!悪ぃ、次古典なんだけど教科書貸してくんね?」
「えぇ・・・嫌だよ。落書きあるし」
「俺今日当たるんだって!マジで頼む!!」

 なむなむ、と手の平を擦り合わせる草薙くんに呆れて冷め切った目を向けた檜垣さんは無言で教科書を渡す。彼女は厳しいようで割と草薙くんに甘い。周知の事実である。
 今、檜垣さんの隣に座っている三城成実くん。彼はサッカー部のレギュラーというかキーパー役だが、そんな彼はちらちらと二人の様子を見ている。確か彼は草薙くんと知り合いだったはずだ。

「助かるぜ。あ、おら、これやるよ」
「何これ」
「アメ。ちなみにソーダ味」
「要らないんだけど」
「いいや、お前は今、このソーダ味のアメが食べてぇはずだぜ。昨日言ってたろ?」
「そーだったかな・・・。まぁ、いいや。貰っておくよ。あぁそうだ、はいこれ」

 檜垣さんがポケットから取り出したチョコレートを草薙くんに渡す。彼はきょとんと首を傾げた。

「チョコレート。一昨日、食べたいって言ってたでしょ。家にあったから持って来た」
「おぉ!さすが玲璃。甘いもん食いたかったんだよなー」

 「その手に持ってるソーダ味アメ食えよ」。ぼそっ、と三城くんが呟いたのを私は聞き逃さなかった。しかし、二人だけの世界へワープインしている草薙くん達には聞こえていない。
 そのうち、例の有名バカップルが教室にいる事に気付き始めた周囲の人間の視線が集まり始めるが二人は気付かない。

「甘ぇ・・・。バレンタインが楽しみだぜ」
「そういえば駅前に新しいケーキ屋が出来てたよね」
「土曜日休みだぜ。行くか?」
「行く」

 「余所でやってくれ」。そう呟いた三城くん。誰もがそう思っているのか、檜垣さんの隣の彼の事を、教室の人間は哀れみの目で見ていた。