HP減少、愛情倍増。


お題サイト「Mercy Killing」様よりお借りしました。



 3年になった。受験戦争だったり何だり、今から一時鬱陶しい行事続きだ。まだ部活は終わっていないが、それでも部活によっては夏休みに入る前には終わってしまうものもあるらしい。現に、生徒会はすでに3年が引退。現在の2年と総入れ替えして新体制に入った。
 今日は部活が休みだったので、草薙人志は朝から恋人――檜垣玲璃の家に上がり込んでいる。受験勉強を始める為だ。一人じゃ絶対にやらないだろうし。

「なぁ、玲璃。もう止めねー、勉強。俺死にそうなんだけど」
「煩いな。そんな事言ってる暇があったらその問3を解いてよ。それ、1年の時の問題なんだけど。あんた、大学どころか卒業も出来ないよそれ」
「真面目な事言ってんなよ・・・。あー、アイス食いてぇ」
「冷蔵庫の中に入ってるよ。食べたいなら自分で取って来て」
「ここお前の家だろ!?」

 付き合い初めて2年。最近、夫婦のようだと周囲の人間に言われる。間違っていないと思う。現に、彼女との仲は悪く無いし別れるなんて考えた事も無い。受験勉強なんてこの段階から始めたのも彼女と同じ大学へ行く為だ。
 けれど――確実に、トキメキは減ってると思う。以前それを玲璃に言ったところ、「乙女みたいな事言わないでよ。気持ち悪いな・・・」、などと言われた。確かにそうだと思った。

「仕方ないなあ。じゃあ、取って来てあげるしジュースも用意してあげるから、その問3解いて。終わったら休憩しよう」
「おーう・・・ま、一応頑張ってみるわ」

 玲璃が立ち上がり、随分伸びた髪を耳に掛ける。何でも、成人式の時には髪が長い状態で出たいとか言って今から二年間は髪を伸ばすつもりらしい。
 とことこと彼女が別の部屋へ消えていく。
 それを見届けた人志は再び、解けそうにない問3の問題に視線を移す。
 ややあって、玲璃が帰って来た。問題が解けないと言えば菓子やらジュースやらが乗ったトレーを脇に置いた彼女が教科書を覗き込んでくる。

「あ」
「何?どーしたのさ」
「今の動作」
「はぁ?」

 教科書を覗き込んだ動作。

「何かこう・・・良かった」
「・・・頭大丈夫?脳味噌溶けてんじゃない?ていうか、早くしないとあんたのアイスも溶けるよ」
「誰が上手い事言えって・・・あー。やべ、勉強のし過ぎかもしんね。今の寒い発言すら可愛いと思ったわ」

 付き合い初めの頃はそんな発言にも顔を真っ赤にしていた玲璃だったが、今の彼女にそんな初々しさは無かった。代わりに、顔を酷くしかめられる。

「えー・・・救急車とか呼んだ方がいいのかな・・・?熱中症って、時期的にまだだと思うんだけど・・・」
「玲璃ー」
「何よ」
「俺、今すっげぇお前の事好きだわ」

 瞬間、横っ面にトレーがぶち当たった。
 その合間、彼女の真っ赤な顔が見えたので満足である。