教室にて。私は書いた記事を見直し、時には修正を入れていた。提出は明日まで。まだまだ余裕はある。ガリガリとシャープペンを走らせながら、それとなくクラス内の会話を聞く。
――と、不意に檜垣さんと草薙くんの会話が聞こえて来た。檜垣さんはともかく、草薙くんの声は大きい。それこそ、教室の隅から隅へ響き渡るぐらいには。
「なぁなぁ、玲璃」
「・・・何?」
「ちょ、睨むなって!俺、今すげぇ事に気付いたんだけど」
「あーうん。磁石のS極とM極が反発するのは常識だから。スゴイ発見とかじゃないからね?」
「知ってるわ!」
ネタの匂いに顔を上げる。2学年のバカップルと名高い彼等の会話は高確率で新聞記事の下に連載されている小説のネタになるのだ。記事を放り出し、代わりにメモ帳とペンを装備。
まるでタイミングを見計らったかのように、草薙くんが手に持っていたそれを檜垣さんに突き付けた。
「これ!」
「・・・消しゴムだね」
「違ぇよ。そっちじゃなくて、これだ、これ!」
「まさか、消しカスの事言ってる?消しゴムの頭にへばり付いたカスの事?」
「カスとか言ってんじゃねぇよ!おまっ!これは偉大な資源なんだぞ」
「意味分からないよ・・・」
言いながら、檜垣さんの机の上に消しカスをぽろぽろと溢す。当然、とてつもなく不機嫌そうな溜息を吐く彼女は、話だけは聞いてやる腹積もりらしくそれがどうしたのかという至極当然な言葉を投げ掛けた。
途端、草薙くんの顔がきらきらと輝く。まるで、小学生が磁石の原理を発見した時のような無邪気さだ。
「見てろよ・・・この消しカス達を、こう、練り上げて・・・」
「・・・消しカスの集合体が出来たね。小学生の時、練り消しだってほざいてたっけ」
灰色の球体とも言えない、ゴム製の何かが出来上がる。消しカスを丸めて練り込むと何だか手触りが気持ち良い物になるらしいが、生憎と私は試した事など無い。というか、どれだけさわり心地が良かろうと、所詮は消しカス。
「ちょっと性能は落ちるけどよ、これでも字って消せるんだぜ。つーことはさ、こうやって消しゴムで消していった消しカスを集めてまた新しく練っていけば――永遠に同じ消しゴムが使えるじゃねぇか!」
「頭沸いてるんじゃない?」
「何でだよ!」
冷静且つ冷酷に言ってのけた檜垣さんが草薙くんの手から練り消し(仮)を奪い取り、ごしごしと紙を擦る。そして、言った。
「こんな黒が伸びる消しゴムなんて消しゴムとは言わないでしょ。消しゴム会社嘗めんな」
「・・・すまん」
結論――消しカスは別に最強でも何でも無い。