心配するな、お前が一番KYだ。

お題サイト「Mercy Killing」様よりお借りしました。



 部活が終わり、制服へ着替えた梧桐章吾は一つ溜息を吐いた。というのも、相棒であり極度のビビリ症を煩っている彼――山背修の発言である。

「おい、梧桐。外で1年のあの子が待ってたぜ」
「・・・またか」
「まただな」

 ザマァ見ろと言わんばかりの顔。ここ最近、1年生の女子がよく校門の所で待ち伏せしているのだ。しかも恐ろしい事にこちらが了承した訳でもないのに勝手に並んで下校してくる。ダイレクトストーカーだ。
 ――家研部らしい。最悪、檜垣玲璃に詳細を訊かなければならないかもしれない。
 憂鬱な気分を味わいつつ、学生鞄を引っ掴む。

「・・・おい、何をしているんだ。帰るぞ」
「いや、あの子と一緒に帰るんじゃねぇのかと思って遠慮してんだけど。お前、二人で帰れよ。俺は別の道通って帰るから」
「要らん気回しは止めろ!冗談じゃ無いぞ!?」
「満更でもねぇくせに・・・行動こそストーカーっぽいけどよ、後ろからコソコソ着いて来る訳じゃねぇから厳密に言えばストーカーじゃないだろあれ。あ、あと、檜垣が『後輩がごめんね』って笑顔で謝ってたぜ」
「謝る気無いだろうアイツ!!」

 草薙人志と彼女の痴話喧嘩に巻き込まれたのは記憶に新しい。家研部とはブッ飛んだ人間ばかりなのだろうか。
 溜息を吐きつつ、急ぐ気配の無い修を置いて部室を出る。その際、チームメイト達に生暖かい目で見送られたがそれが余計に腹立つ事は言うまでもない。
 ともあれ、校門まで辿り着くとやはり彼女はそこに黙って立っていた。黙っていればなかなかに可愛らしい後輩だが、絡まれるのは話が別である。出来れば素通りしたかったが、彼女の目の前を通った瞬間直ぐさま声を掛けられた。

「あ、先輩お疲れ様です。今日もカッコイイですね!」
「・・・お前、家研部だったな」
「はい。今日は部活だったんで遅くなっちゃいました」

 ――これで玲璃に話を伺う事が決定。
 黒いツインテールに活発そうな顔立ち。彼女は1年5組所属の生徒、朝比奈深夏あさひな みなつである。こうやってどうやら部活がある日は校門で待ち伏せしているもよう。
 黙って彼女を観察していれば、首を傾げた深夏は何を思ったのか唐突に提案した。

「そういえば玲璃先輩がこの近くにあるコンビニで新しいアイスが出たって言ってたんで、寄って行きませんか?奢りますよ」
「いい」
「・・・どういう意味の『いい』ですか、それ」
「・・・寄って行くのは構わない。だが、奢る必要は無い」
「何ですか、その難解度の高い言葉。日本語って難しいですね」

 そう言って朝比奈深夏は笑った。