お前もう料理すんな

お題サイト「無気力少年。」様よりお借りしました。



 後輩に届け物をしようと思って1年の階へ降りた時の話。
 同学年の2年と比べて1年の中には私がネタ生産機として目を付けている人間が少なく、あまり徘徊する機会は無い為、久しぶりにその階へ足を踏み入れたことになる。
 ネタなんて在るわけがない。そんな覚悟を決めてやって来たのだが――
 何故だろう、早速面白そうなものを発見。

「今日は和食にチャレンジしてみたんですよ、慎くん」
「え?和食・・・?」

 1年生喧嘩コンビ、宮路慎と神埼悠那。息をするように喧嘩し、それに周りを巻き込む迷惑極まりない彼等だが、今回は場合が違うらしい。
 両者一歩も譲らないのが常のスタイル。だが今目の前で起こっている状況はあまりにも一方的だった。蒼い顔をしてじりじりと神埼さんから距離を取る宮路くん。もちろん、神埼さんは満面の笑み。それはつまり、現状の優劣を雄弁に語っていた。

「君、これが和食だっていいたいのかい?日本文化を馬鹿にするにも程があるよ・・・っ!!」
「どう見たって和食じゃないですか。食材に喧嘩売ってるんですか?」
「いやいや!これは!そもそも料理とは言わないだろう!?」

 そう言って宮路くんが指さした先。何だかゼラチン質で真っ黒なそれ。乾ききっているのか何だか湿っているのかよく分からない物質。というか劇薬か何かにしか見えない。ただ真っ黒いだけではない、というのがネックである。何を調理すればそのゼラチンは生まれるのか。何を見ていればそんな黒くなるのか。訊きたいが訊いてはいけないような、謎の威圧感を放つそれ。
 げんなりした顔の宮路くんがその中の一つを指さした。何だか灰が積もっているような食べ物?だ。

「それは何だい?」
「お、お目が高いですねぇ。これ、おからです」
「えっ!?何でおからが焦げるんだ!っていうか、灰になってるじゃないか!!」

 そもそも、と宮路くんが蒼い顔のままに声を張り上げる。

「これを持って来て俺にどうして欲しいのさ!」
「え?味見ですけど」
「何でぇぇぇ!?もっと他に適任がいるじゃないか!あ!草薙先輩なんてどうだい?鉄の胃袋だし、いっつもお腹すかせてるからさ!」
「駄目でーす。最速の人でしょ?あの人は檜垣先輩の彼氏さんなので差し入れとかしたくないでーす」
「驚きのウザさ!」

 あっ、と何かを思い出したように宮路くんが声を上げる。すでに顔が蒼いだけではなく汗まで掻き始めているから相当焦っているのだろう。

「君さ、家研部じゃなかったっけ?何でそんなに下手なんだよ料理!」
「いやぁ、お菓子作りは得意なんですけど、どうしても普通の料理が作れないんですよね」
「何かあったぞ、そういう話!校内七不思議とかで聞いた気がする!!」

 ――正解。
 家研部が作る料理がたまに劇物、という七不思議は確かに存在する。しかし量と質から見ても神埼さん一人が生産しているようには思えないが。意外な事実が発覚した。要検証ってとこだろう。
 宮路くんの悲鳴をBGMに、私は後輩の教室を探そうと踵を返した。