05.くっつく前は前で、くっついた後は後でうっとうしい

「そういえば、草薙先輩って檜垣先輩とくっつく前はどんな感じだったんですか?」
「うん?」

 ある日、練習が終わって宮路慎と帰っている時の事だ。不意に話を振られ、~代青葉は考えるように黙り込んだ。
 そういえば、今日は本人――草薙人志が居ない。つまり、彼女である檜垣玲璃と帰ったという事になる。最近、人志は彼女と帰る頻度が高い。前までは陸上部3人で帰路についていたというのに。

「あれ?知らないかな、慎は」
「知りませんよ。俺が入学した時からあんなんでしたよ、草薙先輩」
「あぁ・・・それもそうだ。もう1年ぐらい経つかな、人志に可愛らしいカノジョが出来て」
「へぇ。割と続くんですね。こう言っちゃ悪いですけど、代表組は女の子を取っ替え引っ替えしてるもんだと思ってましたよ」

 はは、と青葉はそれを笑った。取っ替え引っ替え。そんな余裕、あるはずもない。代表に選ばれた者なんて全員が全員、部活のことにしか頭にない連中ばかりなのだから。

「まぁ、恋愛事情は人それぞれだ。僕はそれに口を挟んだりはしないよ。だから、そうだね。とりあえず僕が知っているエピソードを一つ教えてあげよう」


 ***


 雪がちらちら降る寒い日だった。クリスマスまであと10日というカウントダウンが始まる時期、練習帰りの草薙人志は同級生である青葉に尋ねたのだ。

「・・・なぁ、あのさ。檜垣玲璃って甘いモン好きかな」
「・・・いや、檜垣玲璃って誰だい?」
「女って甘い物好きだから好きだよな、な?」
「知らないよ。嫌いな子も居るんじゃないのかな。あぁでも、お前の隣の席にいる子?あの子は好きだと思うよ。学校の前にあるコンビニでデザートをたくさん買い込んでいるのを見た事がある」
「おぉ。その隣の奴だよ」
「で?何でそんな事を訊くのかな?」

 いやそれがな、と人志がズボンのポケットに手を突っ込み、紙切れを取り出す。

「何か隣のクラスの何とか、っていう女子に貰った。ケーキバイキングの券」
「いや少し待とうか。その券を渡した子、お前と一緒に行きたかったんじゃないのか?」
「知らねぇよ。つか顔も覚えてねぇし、名前も知らねぇし。んな怪しい奴と一緒にどっか行けるか」
「で?券だけ貰ったお前はその檜垣玲璃っていう子を誘ってケーキバイキングへ行くつもりなのか?あざといな、さすが人志、あざとい」
「おう」


 ***


「・・・で?えっと、まだ付き合ってないんですよね、この段階では」
「あぁ、そうだよ。この後僕は人志に3時間掛けて『そういうのは良くない、駄目、絶対』という教えを叩き込んだ」

 それであれが現在ですか、と慎が少し先を歩く男女を指さす。

「ケーキ食べたい」
「あぁ?コンビニ寄るか?」
「あー・・・まぁそれでいいや。っていうかケーキなら何でも言い感じ」

 うん、と頷いた青葉は自嘲めいた笑みを浮かべた。

「そろそろコンビニで乙女心は掴めないんだって事を説明してあげないといけないね」
「・・・はぁ、頑張って下さい・・・」