第4話

05.ゲーアハルト・ベルゲマン


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 低い音と共に何に使うかよく分からない機械が動き続けている。排出されているのはよく見るような剣。ただし、それらにはラベルが貼られており『魔石30%』と印字されていた。

 幾つも連なった丸いドーム。そのドーム群の中の丁度中央にあるそれにて、ゲーアハルト・ベルゲマンは密かに溜息を吐いた。
 本来、このシルフィア村という区画は同僚であるバルバラの管轄なのだが、諸事情により交代してしまったのだ。それを、研究所の室長達に伝えるべく待っているのだがすでに1時間が経過した。随分と忙しいようだ。

「ゲーアハルト様、お待たせしました。研究所に何の用で?」
「ご無沙汰しています」

 待たされたな、とは思ったが直接本人達が現れるとは思わなかった。伝達の方法が雑と言うか、何となくカッチリしていない感じが少しばかり落ち着かない。
 ゴホン、と仕切り直すように咳払いしたゲーアハルトはやって来た男女を視界に入れた。

 男の方が室長、エリーアス・バルテン。この研究所全てを取り仕切る、実質的なまとめ役だ。
 女の方は副室長、ロジーネ・デューリング。彼女は外部からの客でもあり、現在における帝国ととある商会との橋渡し役でもある。

 どちらも白衣姿だが、エリーアスの方が格好に頓着していないように感じる。逆に、ロジーネは商会メンバーでもあるからか人目に触れて遜色無い、白衣を脱げば少しお洒落な女性といった体だ。

「えー、実はデスネ。バルバラ少佐と管轄を一時交代する事になったのデス」
「へぇ、そうなんですか。またどこぞで戦争ですか?うちの国は強いですからね、俺等が武器研究を進める意味があるのか、たまに分からなくなるんですけど」
「戦争ではなく、あのー、イアン顧問魔道士がホムンクルス127号を連れて脱走したでショウ?」

 ああ、とここで127号の産みの親の一人であるエリーアスが顔を曇らせた。他でもない、彼からの強い要請で127号の身柄を確保しなければならないのだ。あれの一件を知らないはずがない。

「その裏切り者がデスネ、バルバラ少佐の婚約者のドミニク大尉を殺害してしまいまシテ。今、彼女は仇討ちに奔走中なのデス」
「あー、顔が出て来ないけど、いましたね。婚約者とやらが。そりゃ災難だ。一応確認しておきますが、ジャック――127号は無傷で返して下さいよ」

 興味深いお話ですね、とそれまで黙っていたロジーネが作り物めいた笑みを浮かべた。

「はあ?どの辺がだよ。ああ、127号……最近はメンテもしてないってのに」
「いえいえ、ホムンクルスのお話ではなく!イアン元顧問魔道士殿のお話ですよ。一度会ってみたいです、個人的に。何となく私と似た匂いというか、良い感じに理性の箍が外れてるって評判じゃないですか!」

 一瞬だけエリーアスと顔を見合わせる。言い方は悪いが、ロジーネは外部の人間。イアンの正体を知らないというか、何か思い違いをしているとしか思えない。

「あの、イアン殿には関わらない方が良いかと思いますヨ」
「同族嫌悪する方なんですか?」
「アナタとイアン殿は、同族ではないデショウ」
「果たして本当にそうでしょうか?話を聞く限り、私と彼女は近しい人物だと思うのですが。というか、そう自負しています!」

 やめとけ、とストレスが臨界に達したのかエリーアスが胸ポケットから煙草を1本取り出し、ライターで火を着けた。ヤニ臭さが一瞬だけ広がったものの、ファンでも回っているのかすぐに気にならなくなる。

「何でよりにもよって127号がイアン様を頼ったのかは知らん。が、ロジーネ。お前より頭のネジは2本、3本トんでるぞ。お前みたいなのは八つ裂きにされる恐れがある」
「ええーっ!そんな事無いですって!」
「それより、マジで何で127号がイアン様と関わりあるのか知りたい……。あー、野放しにし過ぎたのか?もう野垂れ死んでたら俺もクビ吊るしかねぇかな……。もう二度とあんな成功作は生み出せない気がする」

 話題がレールから外れて行っているのを感じ、ゲーアハルトは話を早急に終わらせる事を選択した。与太話が与太話を生み、執務が滞るのは面倒だ。

「とにかく、イアン殿が次にどんな動きをするのか分かりまセン。今し方、バルバラ少佐から取り逃がしたと連絡がありましたが、関係無いはずのここにも来るかもしれまセン。村には入れないようにするので、召喚獣を放す許可を頂いても?」
「あ?えーっと、村の外にって事ならいいんじゃないですかね。俺も詳しい事は分からないですけど。ただ、村民が音とか気にするんでその辺は考慮してください。あ!あと、127号は繊細なんで、ホント、出来るだけ傷を付けずに返してくださいよ」

 了解しまシタ、そう答えたゲーアハルトは足早に踵を返す。同時に召喚出来る召喚獣は3体。イアン・ベネットは同時に放った3体の召喚獣も難なく処理してみせる事だろう。
 自分に出来る事はイアンが召喚獣を倒した傍から新しい召喚獣を喚び、絶えず体力と魔力を削り続ける超耐久戦のみだ。それをする為には、持ち場にずっと付いている必要がある。ここで油を売っている暇は無い。