どこもかしこも地雷地帯

お題サイト「Mercy Killing」様よりお借りしました。


「元気にしているか、樒。貴方は手紙の一つもしたためないから、私は貴方の生死さえ知らないのだが」
「その、次からは書きます・・・書かせていただきます・・・」

 ――皇子が遊びに来た。この高以良領へ。
 それはとても光栄な事であると同時、うっかり粗相をしでかすと失脚しかねない十代任務でもある。
 それを――我等が領主、小宮山樒は本当に理解しているのだろうか。
 はらはら、と領主補佐である篠塚芥菜はそれを見守る。樒が本郷青桐にゾッコンなのは周知の事実だ。そして彼に釣り合う為に樒がしてきた努力も芥菜はちゃんと認めている。
 認めているが――思うのだ。この領主、皇子持て成すという大仕事を忘れているんじゃなかろうか、と。恋する乙女は結構だが仕事をしてからそういう世界へ飛び立ってくれないか。

「――青桐殿、どうぞこちらへ」
「あ?ああ、貴方も久しぶりだな。芥菜」

 何も用意していないが、せめて夕餉ぐらい出さなければとそう思っていたのを見透かしたように青桐は首を横に振った。

「持て成しはいい。私はこの領のありのままの姿を見たいのだ」
「そういうわけには――」
「構わなくて良いぞ。いきなり押しかけて、悪かったな」

 分かりましたと頷いた視線の先――こちらをジットリと見つめる的場実栗。彼も彼で要注意だ。高以良に良くない印象を植え付けられては堪らない。

「青桐殿・・・その、なら私が夕餉までに観光地を案内しましょう」
「ほう、それは面白そうだ。高以良に観光の名所などあったか?」
「ありますよ」

 今の時期だと桜が綺麗に見える場所があるのです――逢い引きか。
 寸前まで出掛かった言葉を呑み込む。樒にしては選択が乙女っぽ過ぎるが、桜はいいな、と目を細める青桐も楽しそうだ。

「胃、胃が・・・」
「もう何もしない方がいいと思うよ」

 いつの間にか背後に忍び寄っていた実栗がそう言って薄く嗤った。