お題配布サイト『Discolo』様よりお借りしました
太陽が一番高く昇る時間。春の陽気が横顔を照らすのが鬱陶しいが、そんな事を嘆いている余裕など無かった。
眼下にある驚く程表情の無い顔。
常に笑みを浮かべている彼女――小宮山樒のこんな表情を見るのは二度目になる。好きにすればいい、と本郷青桐にそう言った時の彼女の顔。
「もっと焦ってください、樒殿」
「そうは言われてもね」
ぐっ、と手に持った小刀に力を込める。
押し倒されて首元に刃物を突き付けられた彼女の首の皮が一枚切れて血の玉が浮かび上がった。
「青桐殿は――皇族ですが、皇にはなられません」
「そうだね。酸塊殿が出来過ぎた人だし、本人にその意思も無いから。けれど、それが貴方にとってどうだっていうの?」
「あの人を追い掛けるのはお止め下さい。貴方の為になりません」
「いいんだって、私が好きでやってる事なんだからさ」
「貴方は満足でしょう、それで」
――痒いところに手が届かない感覚。
樒は有能な人材だ。だが、到達地点が青桐である以上、彼女の今まで積み上げてきた知と才が生かされる事は無いだろう。なぜなら、彼は皇帝の弟以外の何をも持たないからだ。故に、そこで樒の足は止まる。
それが歯痒くて、辛くて、どうしようもなく終わりで。
「考え直して・・・くださいませんか、樒殿」
「直さない。それが私の領主になった理由だからね。嫌なら、辞めてもいい」
「世の中には心中という言葉があるのを知っていますか?」
「できないくせに、どうせ」
くつくつ、と樒が嗤う。
結局、芥菜はその手を真横に引く事も、突き出す事も出来なかった。