お題配布サイト『Discolo』様よりお借りしました
※山査子との同盟を断っていたら
「俺の領と樒殿の領で、手を組まないかい?」
上垣内と高以良の同盟。
それは利益を得ると同時に、この信用ならない上垣内領主・古小路山査子と手を組む事になる。
それを瞬時に理解した補佐たる篠塚芥菜は双方に気取られないように舌打ちした。領主が入れ替わったばかりでまだ安定しない高以良に付け込むように現れた隣領の主。気に入るはずがなかった。
しかし、上司の命は絶対である。我が領の主たる小宮山樒が是と言えば、是だ。
出来過ぎる年下にして上司である樒は微笑んだ。それは無邪気であると同時、幼子の残酷さを孕んでいる。
「お断りです」
ほう、と溜息のような感嘆のような声を漏らした山査子が挑戦的に笑みを浮かべる樒を見据える。緊張感が極限まで高まり、ただならぬ空気が場に満ちる。
「おかしいな・・・断る理由など、無いはずだけれど?」
「呑み込む理由も無いでしょう」
「俺は嫌われているのかな、もしかしなくとも」
「貴方の事は嫌いではありませんよ。私と同じ匂いがするので、信用できないだけです」
つまり、俺に何が言いたいのかな。
唇は弧を描いているが、目がまったく笑っていない。鋭く細められたその双眸は口元の柔和さと反比例しているせいでひどく違和感があった。
背筋が凍り付くような感覚――
芥菜が憂いていれば、そんな感覚をものともせず樒はわざとらしく首を傾げた。
「何が言いたいか、でしょうか」
あはは、とほんの一瞬。花が咲いたように綺麗で――しかし驚く程に冷たい笑みを浮かべた領主は次の瞬間にはまったくの無表情になった。
「出利葉は私のものです。領土の一片たりとも、貴方にはあげません」
一瞬の静寂。耳が痛いくらいの静けさは、山査子の哄笑によって引き裂かれた。
「っく、ははははっ!いいね!最高だよ、貴方は!だけど、けれど、それでも。――それでも、出利葉は俺のものだ。貴方の返事、しかとこの古小路山査子が聞いた。覚えておくといい、貴方のその言葉が慢心であり傲慢であり、身の程知らずである事を俺が責任をもって教えよう!」
言って、山査子が身を翻す。
見送る樒は――ひどく愉快そうな顔で嗤っていた。