02.気づけばどっちも空っぽだった俺らの財布

 終礼が終わり、今日は部活も休みなので帰ろうかと思った矢先の出来事だった。不意に背後から声を掛けられたのは。

「おう、山背。もう帰るんだろ?帰りにどこか店寄ってコレやろーぜ」
「よ、宮野」

 山背修はシニカルに笑う宮野春暁を視界に入れて苦笑した。彼の手には布のケースに入れられた――PSPが握られている。もちろん、学校に持って来ている言葉露呈すれば即取り上げられるレベルの代物だが、生憎と教師は不在だった。
 かく言う修もまた、そのゲーム機を鞄の中に忍ばせているのだが。

「つかお前、テスト前だろうが。呑気にゲームなんてやってる場合じゃ――」
「ンなこと言うなって!俺やっと新しい弓作ったんだぜ!?狩りに行きてぇんだよ」
「いや、そんな事言われても・・・」

 口では否定しつつも、多分あと数回誘われたら着いて行ってしまうんだろうな。と、頭の片隅で考える。テスト期間中などと体の良い事を言ってはいるが、正直、家へ帰っても勉強などしないだろう。するのはゲームだ。
 ならば、その遊び時間を春暁と共有するのも悪くは無い気がしてくる。
 ――ぶっちゃけ、作った新しい武器が気になって仕方が無い。

「・・・1時間だけな」
「おう!さすが話が分かるぜ、山背!」


 ***


 さすがに高校生2人が親の居る家でゲームに現を抜かす事など出来なかったので、近くの喫茶店へ。午後4時だが人の姿はあまり無かった。微妙な時間帯だからだろうか、或いは平日だからか。
 涼しい店内に目を細め、適当に椅子に座る。
 正面に座った春暁はすでにゲームの電源を入れて良い笑顔で何やら操作していた。それにならい、辺りに教師連中が居ない事を確認して鞄からゲームを取り出した。
 ――と、その視界の端で店員が歩み寄って来るのを捉える。

「ご注文はお決まりでしょうか?」
「え・・・っ!?」
「お決まりになりましたら、そちらのベルでお知らせ下さい」

 笑顔が素敵なウェイトレスだったが、修はそれどころじゃなく変な汗を流していた。それは正面に陣取る春暁も同じである。

「・・・おいおい。何か注文しなきゃなんねぇのかよ、これ」
「山背・・・お前、金持ってるか?」
「持ってねぇ。お前は?」

 春暁が引き攣った笑みを浮かべた。

「持ってるわけがねぇぜ・・・」
「おい、どうする?さすがにここまで来て店出るなんて俺にはちょっと出来ないんだけど」
「金持ってそうな友達いねぇのか?そいつ呼んで、金借りようぜ」
「・・・梧桐とか?」

 修の顔が暗くなったがそれはやはり春暁も同じである。

「あー・・・あいつね、あいつ。どんな見返りを要求されるか・・・俺には見当もつかねぇけど、大丈夫か?」
「大丈夫じゃないだろ。でもま、背に腹は代えらんね・・・」

 この後、電話によって召喚された梧桐章吾から10分以上の説教をされた挙げ句、勉強しろとそのまま喫茶店でテスト勉強をする羽目になったのは言うまでも無い。