01.何かしたい、けど何をしたいと訊かれたら困る昼休み

 2年5組の教室。嘉島勇斗は熱弁を奮っていた。目の前に座って大人しく聞いているクラスメイト、三城成実は聞いているのかいないのかは別としてとにかく微笑ましい者を見るような目をしていた。

「つまりな、俺が何言いたいか言ったらな?何かしたいねん、何か!」
「へぇ、そうなんだ。それで、勇斗は何をしたいの?」
「・・・え?」

 無邪気な顔で尋ねられ、言い淀む。
 いやというか――

「え・・・何それ、超困るやん。何その聞き返し。あかんわ、それホンットあかんわ」
「でも何かしたい事が無かったら、俺の予想だとそのまま『何をするか』話し合ってる間に昼休み終わるよ」
「うぐっ・・・!何やこの子!えろう核心突いてくるわ、恐ろしい!」

 至極当然そうな顔で言われる。そりゃそうだ。多分、成実に聞いたところでまともな答えなど返って来るはずもない。

「まぁ、何もする事無いなら何もしなくていいんじゃないのか?だって何もする事無いんだからさ」
「何や訳分からんくなってきた・・・俺等、何の話しとったんや・・・」
「何をするか、って話だよ。俺はほとんど考えて無いけど」

 弁当を食べ終わったらしい成実が弁当箱を片付けながら呟く。9割ぐらい予想通りの言葉に溜息を吐いた勇斗は何の気なしに教室の外を見た。
 一人で歩いていた男子生徒と目が合う――

「まさに泣きっ面に蜂やんなぁ・・・やべ、宮野の奴と目ぇ合ったわ」
「ん?一人で廊下にいるのなら山背がどっか行ったんだろう」
「せやけど、山背には1組のガリ勉眼鏡こと梧桐おるやん」
「でも、クラス違うからなぁ。ま、一つ言えるのは山背と宮野は割と仲良しって事ぐらいだ」

 そうなん、と聞き返した直後、気付けば教室の中へ侵入して来ていた宮野春暁の笑顔が目の前にあった。多分、彼も自分達と同様に暇だったのだろう。

「自分も暇人か?」
「おう。いつも山背とモン●ンしてんだけど、眼鏡に呼ばれてどっか行ったぜ・・・」
「テニス部は日曜日試合らしいぞ。梧桐が3日分の胃薬をくれとか訳の分からない事を言って来たから間違い無い」

 丁度、3日後は日曜日だ。同学年、一見そうは見えないが極度のビビリ性と名高い山背修の教育係である梧桐章吾の胃は結構頻繁に痛くなるらしい。そして、ストレス関係無く胃痛を起こす成実は常にそれを携帯済み。

「で、お前等は何やってんだよ。神妙な顔して。全然似合ってないぜ!」
「俺達は今から何をするかについて話してるんだ」
「そうそう。お前、何か良い案無いんか?」

 はぁ?とあからさまに不思議そうな顔をした春暁だったが、しばし考えてぽんと手を打った。

「そろそろ次の授業が始まるぜ」