第1話

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 どのくらい走っただろうか。幸い、炎鳥は4区の上空をのんびり飛行しているので、いまだに4区からは出ていない。が、3区のショッピングモール辺りに移動されると車の操作も難しくなってくるので人身事故を起こさない為にも、ここでどうにか確保したいところだ。

「うわっ!?」
「何だよおい、気ィ付けろ!」
「痛い!頭ぶつけました!!」

 道に人が飛び出して来た。慌ててハンドルを右に切ったところ、前など一切見ていなかったらしいジェラルドとルシアから抗議の声が上がる。こいつら人が運転してる時に何を、どこを見ているんだ。前以外であるのは確かだが。
 ともあれ、道を横切るではなく、道をふさぐように現れた男は両腕を広げたまま、今でも車の通り道を塞いでいる。横を抜けてしまいたかったが残念な事に道幅が狭い。道路の真ん中に陣取っている男を轢かないように通り抜けるのは少しばかり難しいようだった。
 盛大に舌打ちしたジェラルドがドアに手を掛ける。強制退去させる気満々だ。

「何かあの人、変じゃないですか?ドラッグ使用者とか?」

 不意にルシアが胡乱げな声を上げた。その手には物騒な事に拳銃を握りしめている。それを見てぎょっとした声を上げたのは今まさに外へ飛び出して行こうとしていたジェラルドだった。

「おまっ・・・物騒な奴だな!さすがに引くわ」
「先輩も変わらないでしょ!でも、民間人相手に発砲はちょっと・・・」

 変な子、変わった子であるとは薄々気付いていたが、先輩2人の苦言に対し、彼女はこう宣った。

「いえ、撃つつもりはありません。今から退かしに行くジェラルドさんに、あの男が襲い掛かったりしなければ」
「前々から思っていたけれど、ルシアさんの引き金って滅茶苦茶軽いよね。すぐ引くよね、その引き金」
「ドラッグ使用者なんて滅びればいいと思っていますから。平和な町に一滴だけ垂らされた猛毒のような存在ですよ、彼等は」

 ――言い過ぎィ!
 方々から抗議を受けそうなルシアの言い分に血の気が引く音をリアルで聞いた。それを偏見だとは言えないし、事実害が出ているのでそう言いたくなる気持ちは分かる。彼等は痛ましい事故を度々起こすわけだし。
 けれど、だから撃ち殺してしまえというのは暴論だ。それに、まだ頑張って道路を閉鎖しているあの男がそういう存在であると決まったわけではない。根拠の無い、それこそ偏見だ。

「あーあー、もういいから、退けつってくる。ヤバそうでも俺は自分の身くらい自分で護れるから、気にする事はねぇよ」
「もうみんなで降りればいいんじゃないですかね」
「ブレット先輩って、結構連れション精神旺盛ですよね」

 面倒臭ぇな、とぼやきながらジェラルドが車を降りる。当然、男の目は降りて来たジェラルドへと向けられた。