第1話

3-14


 ***

「今、ルシアについてブレットに調べさせてるんだが」
「!?」

 ミータルナ支部、執務室。
 ドッペルゲンガーが出たと連絡があった時はにわかに騒がしくなったその部屋はしかし、カミラの思わぬ介入により再び静寂を取り戻していた。
 それを良いことに、手つかずの書類を眺めながらジェラルドは言葉を紡ぐ。

「新入りにあらぬ疑いを掛けるな――ってアンタは言いたいんだろうけどよ、どっかのスパイとかかもしれねぇし、野放しにしとくわけにはいかないだろ」
「まあ、それはそうだが・・・」
「シロならシロ、クロなら泳がせとくのもありだと思ってんだよ、俺は」

 署長、セドリックはその顔を曇らせた。

「だが、書類に怪しい点は無い。上司の名前も我々が把握するものだ」
「んー。いや、そういうんじゃねぇんだよ。書類は偽装出来る。変化能力を持つのなら本人に成り代わる事だって可能だしな」
「・・・疑い過ぎだ」

 爛、とジェラルドの目が輝く。それは野生じみていて、とても魔術に精通している理知的な雰囲気には見えなかった。

「臭うんだよなあ。あいつ、仕事に全く興味無さそうだしよ。個人的な目的があるのは確かだと思うぜ。確実に一物抱えてるって、腹の中にな」
「そうだろうか。緊張しているだけでは?」
「お前見てあんなに薄い反応した女は初めてだよ。アンタの嫁以来じゃね?」
「まあ、確かに彼女は私を見ても恐がらなかった」

 それにさ、とジェラルドは目を眇める。その視線の先には新入りの、まだ何一つ置かれていないディスクがあった。

「アイツの《ギフト》――ずっと発動してね?実は《喪失者》なんじゃねーの、あれ。カミラの早上がりとか何年ぶりだよ、得意分野でもないのに」
「カミラの救援は、ルシアの《幸運》がもたらしたものだと言いたいのか?」
「確証は持てないが。そうだったら腹に抱えてる一物によっては、平気で俺達の敵に回るぞ。アイツ等、一人の例外もなく頭イカレてんだからさ」
「うっ、その節は本当にすまなかった・・・」
「アンタの件はもういいんだよ、終わった事だし特に被害も出てない」

 嫌な予感がするんだよなあ、そう呟いたジェラルドは疲れたように溜息を吐いて天井を仰いだ。