第1話

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 ルシアの放った弾丸はドッペルゲンガーという大きすぎる的に見事命中、ゆっくりとその巨体がこちらを向いた。真っ黒な口が着いているので間違い無く、こちらを向いたその顔が正面だろう。
 獣じみた動きでぐぐっ、とそれが身を屈める。二足歩行かと思いきや、踏切は四つ足。まともな思考回路じゃないのは明白だ。

「来るよ、ルシアさん!」
「いや明らかにブレット先輩が狙われてますけど!?」
「マジか!」

 言葉通り、ルシアがブレットから距離を取る。自分が狙われていないのだと分かっているような動きで、且つ先輩を助ける気などさらさら無い動きでもあった。飛び道具持ちの彼女に助けられる事は無いだろうが、それにしたって薄情過ぎやしないか。
 心中で涙を流しながら、店の角を曲がり、突進して来たドッペルゲンガーをやり過ごす。案の定、ブレットがいきなり消えたように見えたらしい。今度はまるで人間の様な動きでそれが辺りを見回す。
 それを見計らって、ルシアが再び発砲。当たってはいるがダメージを受けている様子はまるで無い。やはり自分達だけでは手の打ちようが無いと言うのか。

「――ルシアさんっ!!」

 ぐりんっ、と物理法則を無視したような動きでドッペルゲンガーの巨体が反転。真っ直ぐにルシアを睨み付ける。狙いを定めているのだ。
 敢えて大声を出して彼女の名前を呼んではみたものの、相変わらずそれの興味は彼女の方にあるようで、ゆらゆらと身体を揺らしている。すぐに飛び掛からないあたり、何か事情でもあるのだろうか。
 まずい、このままではまた新人が――
 ブレットは物陰から飛び出し、抜いたタガーをドッペルゲンガーの背中に突き立てた。まるで、タイヤにでも刃を突き立てたような歪な感触。少しだけ白い肌のような部分に埋まった切っ先はそれ以上進む事は無かった。

「このっ!お前の相手はこっちだ!!来たばかりの新人なんか・・・狙ってんじゃねぇ!」

 一歩、足を踏み込む。再び切っ先が背中に食い込んだ。
 首の関節を無視するような動きで、ゆっくりと、ドッペルゲンガーが振り返った。先程の緩慢な動きが嘘のように俊敏に、速やかにそのハンマーのような腕を振りかぶる。
 その後ろ、酷く冷静な面持ちのまま、銃の弾丸を再装填する新入りの姿が見えた。だからさ、冷静過ぎやしないか。彼女。