第1話

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 仕切り直し。朝一でぐったりした顔をしているセドリックはしかし、その態度を一応は封じ込め、口を開いた。

「それで・・・本日の仕事だが。ブレットとルシアに割り振れる仕事が無いのだ。今日は街の見回りをしていてくれないか」
「あれ?ジェラルド先輩はどうするんですか?」
「今日は私と仕事だ。我々は2区にいるので、何かあればすぐに呼んでくれて構わない。しかし、支部にルドルフは置いて行く」

 成る程。だから頑なにルドルフを引き留めたのか。カミラがいない以上、支部内に戦闘能力が低いブレットとルシアだけでは何かと不安だし、恐らくはルシアに街の中を見て貰おうと思っているに違い無い。地の利はあらゆる場面で有利にも不利にも作用する。

「了解しました。じゃあ、今日は頑張ろうか。ルシアさん」
「はーい。そういえば、あまり3区は見て回っていないですね。自宅周辺しか知らないです」
「ついでだから案内するよ。意外とミータルナって入り組んでて分かり難いからね」

 ***

 自宅周辺しか知らないなどと言うルシアに運転を任せるわけにもいかないので、自分は運転席に座り、当然ルシアを助手席に座らせた。ああ、後輩なんてやって来てもすぐにいなくなってしまうので少しばかり新鮮な気分だ。

「支部の主な戦闘員で私が出会っていないのはカミラさんだけですか?」
「え?いやまさか。たくさんいるよ、この倍くらいはね」
「それでも普通の支部より人手、少ないんですね」
「そうなんだよね。誰かルシアさんが紹介してくれたりー・・・とか」

 笑って受け流されたので仕方無く車のエンジンを掛ける。ここへの勧誘なんて、ヤバそうな宗教に勧誘されるくらい迷惑だろう。
 車をゆっくり発進させながら、ちらり、と新人の様子を伺う。ぼんやりと窓の外を眺めていた。特に楽しげというわけでも、退屈というわけでもなく、ただただぼんやりとだ。

「そういえば、ルシアさんってどうしてここに異動してきたの?」

 昨日、署長が聞こうとして聞き逃した事を訊ねてみる。ふ、と自嘲めいた笑みを浮かべたルシアはやはり自嘲めいた様子でこう答えた。

「ちょっと、人を捜しているんです」
「あ・・・あー、そうなんだ・・・」

 ――嘘臭い。ここで人捜しだなんて、砂漠の中から小石1つ探すくらい難しい。
 何せ、誰が生きていて誰が死んでいるのか。そもそもこの街へ来たのか、正式な手続きを踏んでここにいるのかいないのか。とにかく人口もまともに調べられないくらいの混沌を孕んだこの街で、人捜し。まだ諸外国へ出て行って捜した方が妥当というものだ。