第1話

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「仕事の内容だが・・・諜報が拾った魔力波が異常値を叩き出している。波状からして、大規模な召喚術を行っている連中がいるようだ。それを止め、術使用者を捕縛する」
「あー、タイムリミット付きかよ。面倒臭ぇな」

 ちら、とルシアを見れば彼女と目が合った。その目にはありありと「状況を説明しろ」、と書かれており、良い度胸だなと笑う。しかし新人に仕事内容の説明をするのは先輩の義務と言うもの。乗ろうじゃないか。

「ルシアさん。召喚術は召喚『させない』事が前提になってるから。大抵は低級神霊、って言うまあザックリ言っちゃえばあまり信仰を集めてない小さな神様みたいなのを召喚するんだけど、小さくても神は神。完全にこっち側へ顕現しちゃうと殺せないんだよね、彼等」
「つまり、喚び出されてしまうと手の打ちようが無いと?」
「魔力供給を絶てばいつかは還るかな。けど、そんなの待ってたら何万人って人が死んじゃうからね。それに、召喚術って時間も人もたくさん必要なんだよ。だから、喚び出される前に元を絶つのが基本」
「成る程。了解しました。じゃあ、今からその術師達を見つける作業が始まるわけですね」

 召喚術には突っ込んでこなかったので敢えてここで説明すると、大まかに分けて召喚術には2種類存在する。1つは魔術師が使う『一瞬だけ手を借りる』キャッチ&リリース型の召喚術。簡易召喚術と一般的には呼ばれる。これは取締対象にならない。
 そしてもう1つ。今から止めなければならない、喚び出し、定着させる――低級神霊を大量の魔力によってこちら側へ顕現させる召喚術。これは取締対象だ。というか立派なテロ行為である。低級神霊なんて犬よりちょっと頭が良いくらいの知能しかないわけだし。

「だーかーら!ルシアは俺がちゃんと引率するからあんたは座って待ってろって!今日、これ以外に何か起きないとも限らねぇだろうが」
「いや、今回は私が出る。異論は認めない」
「何で振り出しに戻るんだよ!もうルシア連れて仕事行く流れなってただろ!なぁ、ルシア。俺達とお仕事行くよな!?」
「うわ、何て面倒臭いタイミングで話振ってくるんだ・・・」

 ボソッ、と放たれたルシアのもっともな嘆きは誰にも届かなかった。
 ブレットははらはらと事の成り行きを見守る。正直、彼女が来ようが来まいがやる事は変わらないのでどっちでも良いのだが、目の前の先輩方はそうじゃないらしい。しかも選択権をルシアに委ねてしまったという最悪の状況。
 ――が、やはり季節外れ圧倒的訳あり曰く付きの新入り。その程度では微塵も動揺しなかった。

「あーっと、喜んで同行させていただきます。前の上司にも、ここへ来るなら現場はちゃんと見ておけと釘を刺されましたから」
「あ、何だ。ルシアさんって上司と仲悪かったからここ来たわけじゃないんだ」
「ブレット先輩。私は品行方正、優等生にして模範生だと太鼓判を押して貰うくらいの社畜ですよ。まさか上司と折り合いが悪いなんて理由で異動するわけないでしょう」
「本当何者なの、君・・・」

 彼女の上司がどんな人物なのかは知らないが、曰く模範生の彼女を失う事は相当な痛手だったに違い無い。よくも手放したものだ。穿った見方をすれば、ただたんに平和で警察なんて大仰な名前の付いた人間が出払う事件が起きなかったのかもしれないが。
 ――が、一つここで付け加えさせて貰うと、彼女は恐らく出世などに興味は無い。野心的なものを感じられないのだ。

「とにかく、そういうわけで私の安否は心配して頂かなくて結構です。ここへの異動届けを出した時に、覚悟は決まっていましたから」
「だそうだぜ、どうするよ署長」

 低く呻ったセドリック。しかし、数瞬後には渋々――本当に苦渋の決断を下すような表情でジェラルドの意見を受け入れた。新人の心配で顔が青い。

「分かった。だが、なるべく、出来るだけ!無茶はしないように!」

 はーい、とルシアが返事をするより早く、ジェラルドが踵を返す。彼は車のキーを持っていたが、それは再びブレットへと投げ渡された。どうあっても運転したくないらしい。

「ジェラルド。諜報から直接そちらへ場所の連絡を入れる。携帯を手放さないように」
「おーう、了解」