第1話

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 まず目に入ったのはガチガチに緊張している――我等が署長、セドリックだ。朝の時点では堂々としていたのに、今では何故かずっとネクタイを弄くっている。あと顔力みすぎ、恐い。慣れてても恐い。

「セドリック!連れてきたぜ、新入り」
「どうも」

 ――対するルシア=スタンレイは澄まし顔だった。確かにブレットと会った時以上に相手の顔をチラチラ見てはいるが、それだけ。必要以上の緊張感も無ければ、怯えて固まっている様子も無い。
 なかなかセドリックが口を開かないから自分への前振りだと思ったのか、ここで果敢にもルシアが口を開いた。だからどうしてそんなに肝が据わっているのか。

「異動してきました、ルシア=スタンレイです。これから宜しくお願いします」
「あ、ああ。ミータルナ支部署長のセドリック=ライトだ。宜しく」

 会話が途切れる。ルシアは指示待ちだが、セドリックは思っていたより話がスムーズに進み、むしろ戸惑っている顔だ。このままでは実は小心者という署長の事情が露呈する――

「セドリック・・・。お前、新入りが来たら言わなきゃいけない事あるっていつも言ってたろ?それはどーしたよ・・・」

 助け船どころか船を沈没させる勢いのジェラルド。彼、時々酷く空気が読めない。
 しかし、そんな雑極まり無い助け船でもやるべき事を見出したらしい署長の顔に生気が戻る。何故新入り以上に緊張しているのか。

「あー、その、恐らく前の職場で聞いているとは思うが・・・うちの支部、新入りの死亡率は7割だ」
「はい、勿論聞いていますよ」
「えっ。・・・ああいや、勉強熱心なんだな」

 ――今!今ちょっと本音がぽろりしてましたよ、セドリックさん!
 辛うじて驚きを顔に出していないセドリックを心中で応援する。ルシアが目上の人間を馬鹿にするタイプか否かは現時点では把握出来ていないので、職場の人間関係を円滑に進める為にも署長としての矜持を崩さない方向で行って欲しいものだ。

「この通り、人が慢性的に不足している。慣れるまで、君は自分の保身を一番に考えて動いてくれ」
「了解しました」
「君の健闘を祈る」

 何とか綺麗に話を締め、何故か署長が緊張を肺から吐き出す。優しい人だし、良い人ではあるのだけれどそれ故の甘さが目立つ人だ。実は署長なんてやるタイプの人間でない事は明白。
 勿論、ブレット自身は彼を尊敬しているし、彼以外が署長だなんて考えられないのだけれど。