第1話

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「この人物を連れて来てくれ。久しぶりに女性のメンバーが増えるな」
「おー、マジだ。珍しいなあ、特に女には嫌われる職場だってのに」

 受け取った履歴書を覗き込み、ジェラルドが感心したように頷いた。勿論、ミータルナ支部にも女性のメンバーはいる。が、男性の方が圧倒的に多いのは事実だ。履歴書に貼る為に取られた無表情の顔写真から顔を反らし、車のキーを持ったまま所在なさげにしている署長へ訊ねる。

「11時着の汽車で来るんですか、この人」
「ああ。確か今日は使われる予定のない軽が一台置いたままになっているはずだ。それで行って来てくれ」
「了解しました」

 キーを受け取り、履歴書を読み込んでいるジェラルドの背中を押す。そういえばこの人、グラビアとかの写真じゃなくてプロフィール読み込んじゃう人だったな。

 ***

「どんな人なんですか?僕より歳上なんですかね、彼女」
「証明写真だから老けて見えるけど、まだ19だな。お前がここに来た時と同じ歳じゃねえか」
「僕の場合は左遷で、彼女の場合は希望ですから。背景は随分違いますけどね」
「まーだここに来た事グダグダ言ってんのかよ」
「いえ・・・職場に不満はありませんけど、当時は死にに行けって言われてるようなものですから。そりゃ心も荒みますよ、はい」

 ミータルナへ異動とはそれ即ち、物理的に首斬りを意味する令状だったのだ。一部では徴兵などと言われ、それはそれは忌み嫌われている職場である。勿論、これからやって来る新入りの彼女もその噂を知っているはずだ。
 赤信号、車を駐める。チラ、と助手席に座る先輩の手元を覗き込むも、顔写真のページは後ろに入れられ、個人的な履歴の部分が表紙にしてある。

「・・・どんな感じの子なんですか、その人」
「うーん、目立って変な箇所はねぇな。ここへ来るって時点で訳ありだと思ったが」
「訳ありでしょうね。ミータルナ出身とかでもない限り、好きこのんでこの街に来ようって女性はいません」
「だよなあ。あー、駄目だ。履歴書の文字が全て術式だったらすぐ解読すんのに」
「運転を代わってくれるのなら、僕が読みますよ。情報処理の得意な僕がね」
「いいよ。いくらお前でも、書類の正否はすぐに分かんねぇだろ、時間の無駄だ」
「運転したくないって意志は通じてないみたいですね。分かってました」

 履歴書の『解読』を早々に諦めたジェラルドは窓を開け、ポケットから煙草とライターを取り出した。あまり使わない頭の部分を使ったせいで急速にニコチンが恋しくなってしまったのかもしれない。