1話 戦うためのアイテム

10.来訪者


 臭い消しが出来る物が欲しいと言った面々に好きな香りを渡した後、メイヴィスは物思いに耽っていた。
 思い出すのは先程のグレアムとシノの立ち回りだ。勿論、香水がああだこうだと言っている場面では無い。エアフィッシュと戦闘中の彼等についてである。

 完璧な役割分担と苦手のカバー。短所を補い合う立ち回りは互いの事をよく知らなければ実現し得ないだろう。
 恐らく自分とナターリアも同じ事を無意識的に行ってはいる。勿論、彼等のようにクオリティの高いものではなく、戦闘はナターリアに任せ、時折アイテムで補助を行うという明確過ぎる程に明確な役割分担とはなっているが。

 では、アロイスとはどうだろう。彼からは一方的に護られ、彼自身が護衛であると言ったようにメイヴィス自身は突っ立っているだけの事も多くある。それは騎士であるアロイスの優しさであり、埋めようのない実力差を如実に表している。
 その実力差を埋める為にはどうすればいいか。答えは分かっている。所詮、戦闘においてアイテムボックス以上の意味合いを持てない錬金術師が出来る事は、なるべく戦闘技術が不要な程度に使える魔法武器の開発だ。剣での斬り合い、接近戦は謂わば自殺行為。魔道士ではないので強力な魔法はその場ですぐに使う事は出来ない。
 鍛えられるのは魔法技能の方で、単純な動作だけで魔法を発動出来る魔法武器の作成が、戦闘参加への尤も現実的な方法と言える。

「メヴィ? ボーッとしてどうしちゃったのかなっ?」

 猫を被り直したナターリアに訊ねられ、メイヴィスは苦笑した。

「や、新しい魔法武器の構想とかを考えてた」
「まだ戦闘に参加しようとしてるの? 止めときなよ! メヴィは戦闘に参加しなくていいくらい、価値のあるアルケミストだしさっ!」
「うーん、そういう問題じゃ無くて……」

 どう説明したものか思案していると、武器と聞いてかシノが会話に加わった。

「お、誰の魔法武器を作るのさ。場合によっては私が打ってやるけど?」
「ざんねーん! メヴィ自身の武器について考えているみたいだよっ!」
「ああん? メヴィの武器? じゃあ杖が妥当なところか。鋼武器じゃないなら、私はお呼びじゃないかな。それよりメヴィ、アロイスの武器は作らないの?」
「え? いやあ、アロイスさんのは……。本人が必要だと言わない限りは、私が口出し出来る事じゃないですね……」
「そうかい。残念」

 はいはい、とグレアムが手を叩く。

「クエスト終了よ、みんなお疲れ様。一旦ギルドに戻りましょ」
「ええ、そうですね」

 クエストの完了に同意したヒルデガルトにより、自然と解散の流れになる。さて、アロイスはギルドへ戻って来ているだろうか。それとも、3日たっぷりと使う予定なのだろうか。

 ***

 メイヴィス達がクエストを行っている間、件のアロイスはギルドで暇を持て余していた。用事が予想していたよりもかなり早く終わってしまったせいで、一時的に何もする事が無くなってしまったのだ。
 しかも、メイヴィス達は結構前にクエストへ行ったらしいとヘルフリートから聞いている。今、暇潰しのクエストへ行ってしまえば行き違いになってしまうかもしれない。
 ――無趣味、というのは退屈なものだ。
 はぁ、と虚しく溜息が反響する。ギルド内部は賑わっているというのに、自身の回りだけ閑散としていた。

「あ! アロイスさん! 今ちょっと良いですか」

 ふと響いたかしましい声に顔を上げる。そこには全く見覚えの無い女性が2人、困り顔で立っていた。知り合いだっただろうか、と内心で首を傾げつつ応じる。

「ああ。何か用事だろうか?」
「あのぅ、メヴィとは今日は一緒ではないんですか?」
「いや……。メヴィなら今はクエストに行っているようだが」
「えっ、1人で?」
「他の連中と一緒だと聞いている」
「あ、ああ。そうなんですか。通りでロビーにいないと……」
「お前達はメヴィに何か用事があったのか?」
「はい。私達、受付なんですけど、その、メヴィにお客様が来ていて。ただ、私達も全然知らない人だし、どうしたものかと……」

 言い辛そうだが、メイヴィスの客を名乗る人物を真っ向から「お客さん」だとは思っていない態度だ。確かに、これまでアルケミストとして数々の功績を挙げてきた彼女の客と偽って、接触を図ろうとしている輩がいてもおかしくはない。
 などと考え事をしていると、不意にこれまた知らない男がぬっと姿を現した。

「メヴィは見つかりましたか?」
「わっ!?」

 男の身なりはお世辞にも良いとは言えなかった。旅人風の出で立ちに、小綺麗とは言えない空気感。何と言うか、格好に頓着をしないタイプの人間性である事が伺える。
 案の定、受付と名乗った女性2人は眉根を寄せ、何と答えるべきか迷っているようだった。
 しかし、ここでメイヴィスがどうしているのかなど嘘を吐いても仕方が無い。アロイスは男に対し事実を告げた。

「クエストに出掛けているようだ。いつ戻るかは分からない」
「ああ、そうだったのか。いやいや、ギルド所属なら当然だな。すまん、出直すわ」

 男の格好はともあれ、挙動は何かやましい事を考えているそれではない。冷静に出直すと言うあたり、この男についてメイヴィスに話して、彼にとっては何ら問題が無い事を如実に物語っている。

「メイヴィスに何か用があるのだろうか。良ければ俺が取り次ごう」
「うん? いや君は……?」

 逆に警戒された。肩を竦めたアロイスは自らの身分を明かす。

「俺は彼女に雇われている護衛だ」
「クエストには着いて行っていないようだが?」
「それはまあ、そうだな、行き違いのようなものだ。常日頃からこうではないさ」
「へえ。まあ、アイツは抜けているところがあるからな。なら、メイヴィスにはこう伝えておいてくれ。……オーウェンが訪ねて来たぞ、と」
「承知した」
「俺はメイヴィスの師、のようなものでね。コゼットへ寄ったついでに訊きたい事があって来たんだが、俺もまた行き違いらしい」

 自嘲めいた笑みを浮かべた男――メイヴィスの自称・師匠、オーウェンは手を振るとあっさりギルドから出て行った。あまりにもあっさりし過ぎた引き際だったと言える。