07.チェスターの気苦労
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翌日、本を返却しヴァレンディアへ直行した。一応、必要な資料の内容はメモしているが、それは全てではない。このままもう一度フィリップの館へ行き、記憶が新しい内に作成を終えてしまいたい所存だ。
かなり無茶なスケジュールではあるが、当のアロイスはあまり気にしていないらしい。とはいえ、彼が気にしていなくともメイヴィス自身が気にするので、今度からは思い立ったからと言ってすぐに行動するのは止めよう。
「メヴィ? 考え事か? 館に着いたが」
「えっ、あ、はい。すいませんアロイスさん、疲れていませんか?」
「ああ。このくらいならば日常茶飯事だな。それより、これが終わったらお前の方こそ一度休んだ方が良いぞ」
――逆に心配されてしまった。
こんなんじゃ駄目だ、そう思いつつも館のドアをノックする。今気付いたが、現在の時刻は真昼だ。最悪、門前払いを食らう可能性がある。
と、そう気付いたが、結果的に言えばそれは杞憂に終わった。シオンがあっさりと中から出て来たのだ。安眠を妨害してしまった可能性があるので、開口一番に謝罪する。
「すいません、昼はNGって聞いてたのにうっかり来ちゃいました」
「いえ。丁度、別のお客様もいらっしゃっていたので。ご主人様も起床済みです。本日は昼夜逆転した生活を送られるご予定かと。用事があるのでしたら、中へどうぞ」
「お客様って、甥っ子さん以外の方が来てるって事ですか?」
「貴方のスポンサー様がお見えになっていますよ」
――あ、ジャックさんか。
あの人も自宅同然に館を出入りするなあ、と独りごちながらアロイスと共に中へ入れて貰う。真昼に館へ来るのは何となく新鮮だ。
玄関の戸締まりをしたシオンがメイヴィス達を追い抜き、先頭に立つ。
「この間と同じご用事ですか?」
「あ、はい。図書館で資料を読み込んで戻って来ました。フィリップさんでも、チェスターさんでも良いのでもう一度、召喚術を見せて貰おうかと」
「そうですか。ちょっと今日は騒々しいかもしれません」
いつものリビングへ通される。
ドアを開けた瞬間に流れて来た殺伐とした空気に思わず足を止めた。
「これは……」
室内には館の主であるフィリップと、その甥・チェスター。加えてスポンサーであるジャックがいる。
「――ああ、メイヴィスか。君もここに用事があったのかな?」
優雅に足を組んでいたスポンサーの赤い双眸と目が合う。何てロイヤリティの高い空間なのだろうか。
こちらを見たフィリップが何事か発する前にチェスターが椅子から立ち上がった。心なしか苛立っている気がする。まさか、今は来ない方が良かったのか。
「メイヴィス、召喚術の件だろう。外に出るぞ」
「俺はここで待とう。行っても役には立たないだろうからな」
アロイスはそう言うと、臆すること無く空いたソファに腰掛けた。とはいえ、この面子が揃い踏みしているのはそこそこ見慣れた光景なので、あまり違和感は無い。
行くぞ、と低い声で言われ、チェスターの後を追った。
廊下に出てすぐ、チェスターが訊ねてくる。
「おい、あれがお前のスポンサーか?」
「そうですね。旅の資金とか払って貰ってますし」
「……そうか。異種交流とは面倒なものだな。私の代では関わらないようにしたいものだ」
「異種交流……?」
それとなく何の事か聞いてみたが、返事は無かった。
しかし、進行方向が外である事に気付き、それどころではないと慌てて止める。
「あっ、チェスターさん。今日は外じゃなくて、地下工房に行きたいんですけど」
「何? 地下で召喚術など使ってみろ、天井を突き破る恐れがあるぞ」
「今回は現物は不要です。何故なら――」
「ああ、今は良い。仕事を始める時に詳しい話をしろ。口頭で伝えられても分からん」
――そうは言うけど、チェスターさんにやって貰うのは術式作成だけなんだけどな……。
手伝って貰う手前、流石にそんな舐めた口は利けなかった。