6話 犬派達の集い

14.前の職場と人間関係


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 ブルーノに事の経緯を説明した後、自然と最初の目的であったキノコ狩りに戻る。これはそう、恐ろしい体験をしたという事実から逃避する為の行為と言えるだろう。

 ともあれ、その後の幸先は順調過ぎる程に順調だった。アッシュがここ掘れワンワンしてくるのもキュートだし、キノコが群生している地点を見つけたのでミズアメタケもがっぽり。
 何より、最初は犬嫌いらしかったナターリアがアッシュに絆されて来ているのも見物だった。
 アロイスに手渡された採取物をローブに仕舞いながら、ナターリアを見やる。ブルーノが余所見しているのを良いことに、丁度忠犬へ絡みに行っているところだった。

「ナターリアも、ようやく犬の良さに気付かれたようですね」
「ヒルデさんは、猫はあまり好きじゃないんですか? 犬が大好きだっていうのは伝わって来ますけど」
「私は基本的に、動物全般を好ましいと思っていますよ。仕事柄、犬との関わりが多かっただけでしょう」

 そう言ったヒルデガルトが動物好きである、というのはすんなり呑込めた。彼女は博愛主義という言葉がよく似合う御仁だ。

「先程、メヴィ殿が行方不明になった時なのですが」
「あ、ああ。その件はすいませんでした……」
「いえ。貴方の居場所をいの一番に見つけてくれたのはアッシュですよ。功績を認めたのか、ナターリアもあの通り。アッシュの事を認めたようですね」
「そういうアレなんですね、これ」

 獣らしくアッシュと戯れるナターリア。獣人と言うだけあって、人間とじゃれついていると言うより獣同士が跳ねあっているような光景にすら見える。

「――メヴィ」

 大好きな低いトーンの男声で我に返った。
 振り返れば少しだけ顔を土で汚したアロイスが穏やかな笑みを浮かべている。

「もっと採集するか? それとも、そろそろ打留めだろうか」
「そう、ですね。たくさん集まりましたし、このくらいで十分だと思います」
「そうか。では、ぼちぼちギルドへ戻るとしよう」

 そう言ったアロイスがブルーノを呼びに行く。
 今回のクエストには恐らく初めて、言語を話せない犬という動物を同行させたが悪くなかった。それどころか、心が癒やされる場面が多々あったくらいだ。
 ――私も犬、飼ってみようかな?
 一瞬だけそう考えはしたが、そういえば自分の生活もままならない身の上だ。動物を飼うにしても、当分先の話となるだろう。

 ***

 ギルドに帰還した。
 皆に礼を言い、各々の目的の為、一度解散する。最後に残ったアロイスが、不意に口を開いた。

「メヴィ、俺はこの後、城の方まで足を伸ばしてくる」
「あっ、そうなんですか? 私も同行しましょうか?」

 ああいや、と珍しく渋い顔をした騎士サマは首を横に振る。何というか、彼にしては歯切れの悪い受け答えと言えるだろう。人には話したくない内容なのかもしれないな、と頭の隅でそう考えた。

「すまない、昔の仕事のよしみで呼ばれているだけだ。面白くも無いだろう、俺の事は気にしなくて良いぞ」
「えーっと、そのお仕事って騎士団のやつですよね。辞められたって聞きましたけど……」
「俺もそのつもりだったんだがな。しかしまあ、仕事は辞めても目上は目上。用件を聞かない内から、呼び出しを拒否する事も出来ないな。とはいえ、迷惑と言えば迷惑だ。金輪際、止めて頂くようにとは言うが」

 ――もしかしてアロイスさんって、前の職に戻りたいのかな?
 不意にそんな疑問が脳裏を掠めた。確か、有名な騎士だったと聞き及んでいる。重要なポストに就いていたのであれば、ギルド生活より騎士生活の方が良いと思っているのかもしれない。
 そうなった時に止める手立ては全く無いが、それでも寂しさを感じずにはいられないだろう。

 そう飛躍した妄想のようなものに考えを巡らせていると、言い聞かせるようにアロイスが言葉を重ねる。

「明日までは戻るが、俺を置いてヴァレンディアに戻ってはくれるなよ」
「あ、勿論です! いってらっしゃい」
「ああ。まあ、すぐ戻って来る事にはなると思うが」

 最後、独り言のように言ってのけたアロイスは先程戻ったばかりだと言うのに踵を返してギルドから出て行った。