4話 アルケミストと女子会

04.買い物


 アイテムショップが2軒並んでいる通り。片方は万人向けアイテム売り場、もう片方は魔道職向けアイテム売り場だ。
 迷い無く後者のショップへ入って行ったメイヴィスは、店長に片手を挙げて挨拶する。彼にはよく魔石の取り置きなんかを頼んでおり、知らない仲ではなかったりするのだ。

 しかし、唐突なメイヴィスの訪問に新聞を読んでいた店主は訝しげな顔をした。取り置き商品は無かったはずだが、と言わんばかりだ。

「どうした、メヴィ。今日は目星い物は何も入ってねぇぞ」
「こんにちは、店主さん。あの、魔道ローブを作ろうと思ってるんですけど、良い布とかありませんか?」
「加工される前のローブ用生地か? 悪いな、そういう未加工品は取り扱ってねぇんだ。錬金術師なんざ、わざわざ商店街にまで買い物には来ねぇからな。あー、何だ、絶対に使うってんならいつになるか分からんが取り寄せも出来るぞ」
「それってどのくらい掛かるとか、具体的には分からないんですか?」
「分からんなあ。というかお前、錬金術師ならローブ用の布でも作ればいいんじゃねぇのか? 魔石なら今日入荷したばっかりだぞ」
「あ! 魔石仕入れてるんですか!?」
「おうとも、買って行くかい。つっても、お前ジリ貧生活なんだっけ?」

 ふふ、とメイヴィスは不敵な笑みを漏らした。

「全部買って行きます! 何と言っても、前金で大量の金銭を入手しましたからね!」
「お、おおっ! そりゃ俺的にも助かるが……え、大丈夫か? 即金以外受け付けねぇぞ」
「流石にそんな大量のお金は持ち運んでいないので、ツケで!」
「ええ……明日払いに来いよ、ホント」
「勿論ですとも!」

 心配そうな顔をしつつも、店主は立ち上がり魔石が飾ってある棚へと移動する。その際、物珍しげに棚の商品を見ている騎士2人を視界に入れた彼は目を白黒させ、彼等に声を掛けた。

「あ、あんたら客か? 一般商品なら隣の店だぞ」
「いや、俺達は彼女の荷物持ちだ。気にする事は無い」
「え? いや、ちがっ――」

 メヴィ、と店主が呆れた顔をする。

「幾ら金が入ったか知らねぇが、そういう使い方は良くないんじゃないのか?」

 この後、店主の誤解を解くのに10分を有したが、魔石を大量に入手した。具体的に言うと、袋に全て詰めた重量が5キログラムになるくらいだ。後悔はしている。

 ***

 続いて、布を買う為に手芸用店を訪れた。魔石は心底重かったし、アロイスやヒルデには無理するな持つからと言われたが、最早意地の境地で荷物を持っている。こんな重い物、人様に持たせられるはずがない。
 しかし、ここまで来てしまえば後は早い。買う布は黒で決まっているからだ。

 早々に店員を捕まえたメイヴィスは必死な形相でオーダーした。

「すいません。黒い布を1ロール下さい」
「……え? あ、え? 巻いてある布、全てですか?」
「はい。大丈夫です、その内使い切るんで」

 店員が2人掛かりで布を1ロール持って来た。
 流石にこれを運ぶのは物理的に骨が折れかねないので、所持していた術式を翳す。もうこれ、直接地下の工房に飛ばしてしまおう。何か押し潰して壊してしまうかもしれないが、自身の人体が破壊されるよりマシである。

 会計を済ませ、移動術式を起動させた。
 ふっと一瞬のうちに布が消え、ついでに紙に書かれていた術式が解け消える。これで買った布は地下の工房に放り出されているはずだ。

「メヴィ殿、その魔石も移動させてしまえばいいのでは?」
「や、今日は本当は買い物に行く予定なんて無くて……術式、1枚しか持ってなかったんですよ」
「成る程。例のローブが完成した暁には、持ち運びが便利になりそうですね」
「た、確かに……」

 話ながら店を出る。
 そこで、もう一度メイヴィスは彼等の荷物をまじまじと観察した。

「あの、ところで、その荷物はどうしたんですか?」
「ああ、これはシノからのお遣いだ。届いた玉鋼を引き取りに行かねばならないらしいが、手違いでクエストへ行く事になったそうだ。流石にギルドのマスターに荷物持ちをさせる訳にはいかないからな。我々がその役目を買って出た」

 自分がいない間に、何かしらのトラブルがあったようだ。しかし、玉鋼か。大変重そうだ。