4話 アルケミストと女子会

02.ローブと布と革


 が、流石女子会と言うだけあってなかなかピンク色の話題から次の話題へと移行しない。というか、移る気配が無い。何とか話題をすり替えるタイミングを伺っていたが、主催者であるグレアムが話し掛けて来た。

「メヴィ、シノとクエストへ行ったそうね」
「え? あ、ああ。はい、行きましたよ」
「ありがとう、シノがとっても喜んでいたわ。今度、アタシ達がお礼に美味しい物でも奢るから、楽しみにしていなさいな」
「えっ、2人で? 良いですって別に。恋人達の逢瀬を邪魔するとか、私馬に踏み殺されちゃいますよ……」
「あらあら、口が上手ねぇ、メヴィは」
「冗談じゃ無くて全体的に本音――」

 ねえ、と今日は猫を被り忘れているナターリアが怪しげな笑みを浮かべている。

「最近、アロイスさんとよく一緒にいるよね。メヴィ。うふふ、アロイスさんの方はメヴィの事が大好きだったりして……」
「ナタ……。そういう恋愛脳過ぎるところが、彼氏の出来ない理由かもよ」
「あ?」

 それより、と業を煮やしたメイヴィスは机を両手で叩いた。あら、とグレアムが驚いたような顔をする。

「駄目よ、女の子がはしたない。どうしたっていうの?」
「私、今、大きな錬金術の依頼を受けてて。クローサとか、毛色は違うけれど魔道に精通しているしグレアムさんも魔道ローブとか扱う店で昔働いてたって言うじゃないですか。ちょっと私の仕事について、意見が欲しいんです」
「ええ、シノから聞いているわ。アタシに答えられる事だったら何だって答えてあげるから、大船に乗ったつもりでいなさい!」

 グレアムの言葉に押されるように、先日の失敗を思い出す。錬金術初心者のような失敗、あろう事かアロイスその人に目撃された失敗――次は華麗に成功させて、出来る錬金術師である事を多少なりともアピールしたいものだ。

 その為にまずやるべき事は、即ち情報収集。錬金術師として1と1を足して2にする事は出来るが、素材の知識については一般人より多少知っている程度。その道の研究者には到底及ばない。
 その穴を埋めるのは、ギルドの頼もしい同僚達だ。

「実は、先日早速、例のローブを作ろうとしたんですけど――」

 ともかく、何が悪かったのかが曖昧なので先日の失敗を暴露する。最初にもの申したのはクローサだった。

「使ったのは普通の魔物の革なの?」
「うん。何か、どこにでもいるような熊っぽい魔物の革」
「魔道ローブに脳筋魔物の革は合わないねえ。少なくとも魔法を使うような獣の皮じゃないと。そうでないのなら、もういっそただの布の方が良いよ。相性が悪いと思う」
「暴発した原因はそれかな?」

 その術式さあ、とナターリアが呟く。

「あたしも一緒にいた時にウィルドレディアに作ってもらった物でしょ?」
「ああうん、そう、ドレディさんに」

 本名不明、ギルドにおける最高魔道士・ウィルドレディア。裏では密やかに魔女であると囁かれている女性だ。
 当時の事を思い出したらしいナターリアは有力な証言を吐き出した。

「確か、アイツ、その術式は重いとか何とか言ってたと思う。ただの布に、それを転写出来るものなのかな?」
「何か、ナターリアのテンションが普通だと誰が話してるか分からないね。もっとテンアゲで言ってみてよ。いつもみたいに」
「あのねっ! その術式、前にドレディさんがとーっても重いって言ってたのを思い出したのっ! そういうのって、ただの布に転写出来るのかな? ね、メヴィどう思う?」
「やらせといてアレだけど、こう、結構怖いね……」
「でしょ?」

 結論としては、とグレアムが締めのような言葉を紡ぐ。

「アタシも魔道ローブはただの布か、高価なものだったら魔物から剥ぎ取った素材で作られていたのを知っているわ。クローサとナタの情報を整合して――高価と言われる魔道用の魔力を孕んだ布でローブを作る必要があると思う。つまり、今からメヴィが集めなければならないのは、魔力耐性のある布ね」
「うわあ、大変そうですね……。そういうのって、布生地を売ってる店で買えますっけ? それとも、アイテムショップ?」
「さあ……。仕入れが間に合っていれば、どちらにも売っている可能性はあると思うわね」

 今日の目的を一つ追加。この女子会が解散した後は、アイテムショップなんかに買い物へ行く。