3話 鍛冶師と錬金術師とミスリル

06.大爆発


 ミスリルの採掘なんて大半の人間が初めてだろうが、まるで出来る体を装っているシノにアロイスが方法を尋ねている。なお、どちらもミスリルの爆破作業など当然やった事などない。不安を覚える光景だ。

 それでも、シノは謎の手際の良さで魔法を内包したガラス玉をミスリル周辺に設置した。これでミスリルが粉微塵に砕け散れば、今日のクエスト報酬はゼロである。
 そんなものでミスリルが千々に砕けるのであれば、すでに加工技術が生まれているだろうが。

 設置作業を終えたシノとアロイスが戻って来た。
 心なしか――そう、夏、海へ行った時のように楽しそうなアロイスが訊ねる。

「これからどうするんだ?」
「えーっと、あー、さっきも言った通り……爆破します」
「そうか。採掘作業と言うのはやはり大変なものなんだな」

 ――こんな危ないやり方をするのは私達だけだろうなあ……。
 まさか我流の採掘方法とは今更言い出せずに、メイヴィスは曖昧な笑みを浮かべた。

「メヴィ」
「あ、今やります!」

 心の準備をしていたらシノに急かされた。その急いた状態のまま、スイッチを深く押し込む。事故防止の為、ボタンは深く深く押し込まないと起動しないように設計した。
 魔力を僅かに吸い取られるような感触。メイヴィスの僅かな魔力は回路を伝い、遠く離れたマジック・アイテムへと伝わる。

 一瞬の間。

 次の瞬間には目に痛い光が網膜を焼き、凄まじい破壊音が鼓膜を振るわせた。心なしか、地面が少しばかり振動している気もする。
 ――威力、強く無い……?
 予想の2倍は凄まじい音と光だったが、大丈夫かこれ。そういえば、魔法を埋め込む時に、魔女と名高い魔道士お姉さんがやけに張り切っていた気がする。

 ちら、とシノに目配せすると、流石の彼女も激しく瞬きを繰り返していた。珍しくも困惑の表情が浮いているので、彼女にとっても許容範囲を遥かに超えた爆発だったと言えるだろう。

「ほう、まさか地上でこんなに激しい花火を見る事になるとはな」
「えっ!?」

 呑気に笑うアロイスに――大変失礼且つ身の程知らずだが――正気を疑った。何を言い出すんだこの人は。
 いや待て、目分量を失敗及び試運転をしていないマジック・アイテムを使用した自分へのフォローだったのかもしれない。落ち込んでいる暇があるなら俺のブラックジョークでも聞いて、さっさとミスリルの無事を確かめて来いよと。

「どれ、ミスリルは岩から外れたかな? 俺が確かめて来よう」
「えあっ!? わ、私も行きます!」
「何かちょっと、心配になってきたぞ。これ大丈夫か」

 ゾロゾロと3人でアイテムを仕掛けた場所へ足を運ぶ。砂煙がもうもうと舞って、少しばかり息苦しい。

「――画期的な方法だったな」

 シノがミスリルの大きな欠片を拾いながら呟いた。煌々と輝きを放つそれは彼女の手の平より大きい。アイテムショップなんかに売られているミスリルとは違い、完全に岩の部分が消し飛んでいるので、純粋なミスリルだ。
 その方が助かりはするが、失敗が良い方向へ転がった、所謂幸運であったとしか言いようがない。次からはもっと注意してやろう、そうしよう。

「5sだったか? 採って良い量は。俺はこの小さな破片を1つだけ貰おうか。クエストの記念に。初めての採掘作業記念と言ったところか」
「そんな小指の先くらいの大きさの奴でいいわけ? もっと大きいのを持って行けよ」
「そうは言われても、俺には必要の無いものだからな。残りはお前達で分けるといい。俺は持ち歩けるサイズのこれでいい、というかこれが良いな」

 アロイスが持って行ったその欠片は、ともすればアクセサリーとして加工出来そうな程の小ささだ。後で、装飾を提案してみよう。ミスリルそのものは加工出来ないが、キーホルダーくらいになら、自分でも加工出来そうだ。

「メヴィ、受け取れ」
「うわっ!?」

 シノからミスリルの大きな欠片を投げ渡された。それは光を撒き散らし、大変美しい。加工などしなくても、その美しさには価値があると言えるだろう。

「よし、あとは魔物の討伐をして、帰るだけだな」